『なぁ、真琴。』
頭上から降ってくる優しい声。
『俺たち、幸せだったよな?』
幸せだった。
『結局、誰かを巻き込んで傷つけ続けた俺たちだったけれど、それでも……お前との日々は幸せだった。』
誰かの犠牲の上に立つ幸せだったけれど、それでも良かったと思った。
『本当のこと、話せなくてごめんな。
どうしてもお前だけは、傷つけたくなかった。
あの時のお前との出会いは偶然だったけれど、お前はそれを必然に変えてくれた。
手放したくねぇ、護りてぇって思わせてくれた。
それほど……お前のことが大事なんだ。』
私でもきっと同じことをした。
私も、呉都さんの意思を護りたいって思った。
結局、あの時の私には言えなかったけれど……今は違う。
「……私も……呉都さんが大切だよ。
私を導いてくれた人。
あの日、私を拾ってくれたのが呉都さんで良かった。
私も……愛してるよ。」
呉都さんの最期の言葉へのお返し。
『……ハハッ、もう会わねぇって思ったから言ったのによ。
恥ずかしいったらねぇな。』
恋人同士の"愛してる"じゃない。
もっと深く親愛なる言葉。
当たり前の世界から切り離された私と、私のために自分の世界を捨ててくれた呉都さん。
本当は永遠に交わることのない私たちだったけれど、世界はどんな気まぐれからか私たちを結びつけてくれた。
そこまでの経緯がどんな辛く苦しいものであったとしても、私は……呉都さんと出会えたことに後悔はしない。
この温もりも、私に向けられた言葉や表情も、本当はあの日で終わってしまっている。
でも……私の最期に、呉都さんがいてくれて良かった。
「……呉都さん。ごめんね。」
『俺と同じ道を歩むのか?
お前には、待ってる奴らがいるだろ。』
そうだね……。
瞼を閉じると、みんなの顔が浮かぶ。
燐理と由樹さんはあのbarで私に笑いかけてくれて。
来都たちはあの屋上で私の周りに座ってワイワイやって。
そして……離れ離れだった時間の分まで朱羅と過ごして。
そんな日々を夢見た。
でも……