落ち着け……。



私は……殺さないって決めたじゃないか……。



「それに、君の弟……朱羅も呉都さんと同じ顔をする。
その手を赤に染めるたび悔やむような。
あれも充分美しい赤を見せるというのに。」



ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら呟かれたその言葉に、私の中で何かが切れた。





「皮肉なものだよな?
護り屋の姉と殺し屋の弟、この世に残されたたった2人だけの家族が敵になるなんて。」





「……黙れ……、」





「2人が殺し合うステージでも作ってあげようか?」





「……黙れッ!!許さない……ッ。
呉都さんにしたことも……朱羅にしたこともッ!!」








一瞬で私の周りに群がる無数の手に飲まれる。








"殺せ……"




"殺せ……"




"殺せ……"




〈真琴ッ、落ち着いてッ!!
それ以上はダメよッ!!〉



もう……誰の声も聞こえない。



届かない。



殺す……殺す……殺す……ッ!!!!








「ぁぁぁぁああああ"あ"あ"ッッッ!!!!!!」








皇帝の後頭部目掛けて、上段蹴りを繰り出す。



蹴りを避けた皇帝の髪を掴み、吸い込まれるように膝を鳩尾に埋める。



何度も……何度も何度も。



膝蹴りが鳩尾に入る度、呻き声があがるが、それさえもその時の私には聞こえていなかった。



髪から手を離すと、皇帝の身体が崩れ落ちた。



うつ伏せに倒れた皇帝の身体を踏みつけ、蹴りあげた。



皇帝の身体は吹っ飛び、壁側まで飛ばされた。



「……立て……ッ!!殺してやるッ!!」



「……ハ……ッ、それが……君の本性……か。
殺してみろ……ッ。
呉都さんの……大事にして、いたもの……に殺されるなら……本望だ……。」



頭が割れるように痛い……。



聞こえない……見えない……。



もう……私は……堕ちてしまった……。



殺すという欲望だけが……私を支配する。








皇帝ノ放ツ赤ハ……ドレホド綺麗ナンダロウ……。








「……真琴ッ!!!!」



その声を遠くに聞きながら、私の意識は堕ちた。