「ここ、だよ?」
その声が背後から聞こえた瞬間、背中に鈍痛が走った。
「……ッ、」
「やっぱ、少し弱かった、かな?」
視界に捉えたその姿は、またゆらゆらと空間に溶け込むように消えていく。
これじゃ埒が明かない。
〈……何か策はあるの?〉
「……とくにねぇ。捕まえるだけだ。」
瞼を閉じ、視覚を遮断する。
全ての神経を聴覚に集中させる。
下の階で刃が交わる音。
真琴が階段を登っている音。
吹く風の音。外の喧騒。
そして……ほんの少し聞こえた砂利の音。
「……そこか……ッ」
その位置に蹴りこめば、何かに当たった感触があった。
「グ……ッ……、さすが、blackkillersのリーダー、だね。」
チッ、全然効いてねぇ。
「……シヴァ、使うぞ。」
〈……まぁ、致し方ないよね。〉
俺の能力は、自分の血を武器にする能力。
そしてシヴァは、相手の弱点を見るだけで分かる。
「汝、我の願いを聞き届けよ。
我の血は武器へ、我の肉体は媒介へ。
形は剣へ。我の願いは、"殺さずに救うこと"。」
左手から滴る自分の血がみるみる変化し、一振りの剣へと姿を変える。
「へぇ……それが、第二神賢者の能力……。
でも、僕は捕まえられない、よ?」
そういうと、帝王はまた姿を消した。
「……それはどうだろうな。
知ってるか?
この力は、こんな使い方も出来る。」
剣を振り払うと、その剣の切っ先から血が振りまかれる。
それは俺の周りに飛び散り、ある一点を浮き彫りにする。
見えないのなら、印をつければいい。
帝王の場所はもう分かった。
〈……来都、左腕の上腕二頭筋、右足のふくらはぎ、それと脇腹。〉
シヴァが指示した場所に切りつける。
「グァ……ッ!!!」
「……その傷は、深くはねぇが浅くもねぇ。
あまり動くと危険だと忠告しておく。」
蹲りながら傷口を抑える帝王。
そのフードが風で靡き、その顔を露わにした。