中を覗くと、兄さんがいた。
ある一点を見据えて。
その視線を追うと、気を失った女の子の首にナイフを突き立てているヤツがいた。
「蘭丸……てめぇ……なぜこんなことをしたッ!!」
その名前に聞き覚えがあった。
兄さんが唯一仕事について指導していた男。
最近では"忘却の皇帝"として兄さんと同等の実績を持つと聞く。
そんなやつがなぜあの子の首にナイフを突き立てているのか。
「貴方は私の憧れだった。
なのに……なぜ貴方は殺し屋を辞めたのですか?
こいつのせいだからでしょう?」
「違うッ!!
もう御免なんだよ……誰かを殺すのは。
俺はこいつの前では普通でいたかった……ただそれだけだッ。」
俺たちはそのやり取りをただ聞いているしかなかった。
あの2人の間に割って入れるほど、俺たちは強くなかった。
「ごめんな、蘭丸。
お前をこの世界に導いちまったのは俺だ……。
俺のせいでお前はこんなになっちまったんだな。」
「私は貴方のお陰で、本来いるべき場所にこれたんです。今の私は幸せですよ?」
あいつの瞳は歪んでいる。
人を殺すことが幸せ?
俺たちはこんなにも苦しみながら耐えているのに、あいつはこの残酷な仕事を幸せに感じているのか……?
背筋が凍った。
あいつは……化け物だ。
「私は依頼されたのです。
この少女を殺せと。
だから貴方には申し訳ないが……これをもって私たちの関係を終わらせましょう。」
「蘭丸、やめろッ!!」
その瞬間、あいつはあの子の首をナイフで切り裂いた。
今でも鮮明に覚えている。
兄さんの愕然とした表情。
あいつの恍惚とした表情。
そして……止まることのない赤。
「さようなら。私の尊敬"した"人。」
去っていったあいつは、俺たちに背を向けて笑っているのだろうか。
許せなかった。
兄さんを嘲笑っているであろうあいつが。
「真琴……おい、真琴ッ!!
頼むから目ぇ覚ましてくれ……ッ!!なぁ……ッ。」
あの子の身体を抱きながら兄さんは叫び続けた。
誰が見ても、もう手遅れだと思った。
それだけ……出血量は多すぎた。
「あぁ……ぁ、ぁぁぁぁあ"あ"あ"あ"ッッ!!!!!!」
もう聞いていられなかった。
兄さんの感情が壊れるのを感じた。
その時、突如兄さんの身体が輝き始めた。