(来都side)
俺たちの父親は組織のボスだった。
俺たちは生まれたその瞬間から、殺し屋になることを決められていた。
それが普通だと思っていた。
兄さんは俺の憧れで、目標だった。
俺より早く殺し屋になって依頼をこなす兄さんを、親父は褒めたし、俺も凄いと思っていた。
だけど、その考えは……間違っていた。
その日は家に俺1人だった。
親父と兄さんは仕事に出ていたし、母さんはとうの昔に亡くなってしまった。
いつも通りの時間に眠りにつき、次に目を覚ました時には朝になっているはずだった。
だが、俺が目を覚ました時はまだ深夜で、もう一度寝ようと思った時、下から物音がした。
親父か兄さんが帰ってきたのだろうと降りてみると、そこには小さな女の子を抱えた兄さんがいた。
「兄さん、その子は誰?」
「……来都。俺たちは間違っていたんだ。
殺し屋なんて存在すべきじゃない。」
それは今までの兄さんを否定する言葉だった。
「そんなことないよ!!
親父いつも言ってるじゃん、悪い人はやっつけなきゃいけないって。」
もちろん俺もそうだと思っていた。
「違う。
俺たちは残された人のことを考えてなかった。
悪いヤツにだって家族や大切な人がいるんだ。」
そう言いながら兄さんは、腕の中で眠る女の子を見つめた。
すやすやと眠る女の子の頬には涙のあとがあった。
「この子は殺し屋に家族を奪われた。
落とし前はつけなきゃならねぇ。
だから俺はこの子を護る。」
兄さんの覚悟を持った瞳に、俺は何も言えなかった。
そうして兄さんは、家を出ていった。
親父は兄さんを裏切り者と罵っていたが、あの時の兄さんはいつも以上に大きく見えた。
たまに兄さんと外で会い、話をした。
ほとんどあの女の子の話だったけれど、元気に過ごしているみたいで安心した。
そして、そんな俺も仕事をする年になった。
初めての依頼だったが……その時、兄さんの言った意味が初めて理解出来た。
手に残る感触も、飛び散る赤も、全てが恐怖だった。
親父はずっとこんなことを息子にさせていたのかと思うと、寒気がした。
だが、俺には兄さんのような意思の強さも実行力もなかった。
俺はせめて何も感じないように無になることに努めた。