「なぁ、真琴。
この世界にはたくさんの人がいる。
そんで、人はいつか死ぬ。
でもな、世の中には人を殺す悪いヤツらだっている。
真琴は、その悪いヤツらをどうしたらいいと思う?」
「うーん……倒すかな?
ヒーローみたいな?」
「ヒーローもいいな。
だが、倒すだけじゃ悪いヤツらは全員倒せない。」
「じゃあどうするの?」
「ヒーローでも悪いヤツらでもない、普通の人が何とかするんだよ。
誰かに助けてもらうんじゃなく、自分で何とかするんだ。
護るのも殺すのも一度きり。
でなけりゃ、人もこの腐った世界も成長しねぇんだ。
俺たちは暗躍者であると共に、世界をあるべき形へ導く先導者でもあるんだよ。」
「呉都さんの話難しいよ。」
「ハハッ、まだ真琴にこの話は早ぇな。
だが、次思い出した時、きっとお前はその意味を理解出来るようになってるさ。」
そうだね……呉都さん。
今ならその言葉の意味が分かるよ。
殺しの対象になることで自分のしてきたことを見つめ直す。
護られることで初めて自分の周りにいる大切な存在に気づける。
誰かに寄りかかり続けることも、1人で生き続けることも出来ない。
いつかは1人で何とかしなきゃならない時が必ず来るけれど、だからといってそばにいてくれる人の存在を忘れてはならない。
呉都さんは殺し屋だった。
そして私は護り屋になった。
だけど私たちは共に時間を共有してきた。
呉都さんにとって私はどういう存在だったのかは分からないけれど、私にとって呉都さんはとても大事な人だった。
今までも、そしてこれからもそれは変わることはない。
そんな呉都さんは……ある冬の日に亡くなった。
警察から聞いて葬式を終わらせるまで、私は泣かなかった。
というより、泣けなかった。
家に帰れば、いつものように笑顔でおかえりと言ってくれる気がしたからだ。
いつもみたいに……笑ってご飯食べて……。
だけど、そんな日はもう二度と来なかった。
それをやっと受け止められた時、私はあの日のように声を上げて泣き続けた。