「失礼します。」
初めて見たその顔に、少しの驚愕が生まれたのを私は見た。
「ボス、そこにいる奴は?」
「入口に立っていたのを連れてきただけだ。
お前に会いたがっていてな。」
「……そうですか。」
そこからの報告を耳にしながらも、決して視線はその人から外さなかった。
全てが美しく見えた。
無表情ながらに、仕事をする時はあそこまで美しく一瞬にして命を刈り取る。
それを想像するだけで胸が高なった。
「呉都、今日から教育係についてもらう。
良い殺し屋になるぞ、こいつは。」
「はい。分かりました。……ついてこい。」
促されるままに部屋を出た。
何も喋らず、廊下を歩く私たち。
「俺はお前に忘れろと言った。
なのに、なぜこんなところまで来た……ッ。」
そんなもの、答えは一つしかない。
「貴方に魅了されたからです。
貴方が生み出す赤は、どんな色よりも美しい。
私は、それをもう一度見たいと思った。
そして、自分でその赤を作り出せるようになりたいと思った。
ただそれだけです。」
それを聞いて、あの人がどう思ったのかは知らない。
あの人がなぜ表情を歪ませたのかも、その時は分からなかった。
「……そうか。お前、名前は?」
「星嶺 蘭丸です。高校は行ってません。」
「俺は志浪 呉都だ。
まぁ、これからよろしくな。」
そうして交わした握手。
私は、その瞬間に生まれ変わった。
今までの自分から、殺し屋の自分へと。
何も無かった頃とは違う。
ただただ……美しい赤を求め続けた。
私が憧れたその人は、この世界で最強と言われるほどの殺し屋だった。
それから何度も一緒に仕事をした。
一緒にその手をあの美しい赤に染めてきた。
嬉しかった。
快感だった。
自分のいるべき世界はここだったのだと、すぐに理解した。
だが、それは日に日に綻びていった。
呉都さんは、人を殺すたび辛く苦しい表情を見せた。
私にはそれが不思議でならなかった。
あんなに綺麗な赤を作り出せるのに、なぜそんなに苦しそうなのか。
そんなある日、呉都さんは私に話してくれた。
「俺には、一番大切なヤツがいる。
アイツを護るためにも、この狂った世界を変えてぇんだ。」
そう微笑みながら言う呉都さんに、私は瞬間的に察した。
そいつが呉都さんを惑わせているのだと。
私にとって、会ったこともないその誰かは、呉都さんの赤を濁す害でしかなかった。