(星嶺side)
私が初めてその人と出会ったのは偶然だった。
果てしない暗闇に突如咲いた真っ赤な花。
私には……飛び散った鮮血がそんな風に見えた。
私の瞳を一瞬にして支配した赤に、瞳だけでなく心までも鷲掴みにされた。
中学をそれとなく卒業し、ただの抵抗のつもりで高校を選ばず、フラフラと日常を過ごしていた。
そして、ふと惹かれるように入った路地に、私の人生は落ちていた。
そこで見たものは"日常"ではなかった。
逃げ惑う男に、それを追い詰めるフードの男。
悲鳴を聞く間もなく、一瞬にして仕留めるその才能。
私にとってそれは……生から解放する儀式のように感じられた。
素晴らしいと。
美しいと思った。
その瞬間に私の人生は決まった。
"この人のようになる"
それこそが私の最初の道だった。
「さっき見たのは忘れろ。
あれはお前が見るにはまだ早すぎたモンだ。」
そしてこれが、あの人が私に放った最初の言葉だった。
その日から、似たような場所を彷徨き回った。
そういう行為が行われそうな場所を。
忘れろと言われても、もう忘れられなかった。
それほど輝いて見えたのだ。
だが、そんな簡単にはいかなかった。
何日探し回っただろう。
今思えば、その時既に中毒になっていたのかもしれない。
それほど……もう一度、あの綺麗な赤が見たかった。
そして、転機は突如訪れた。
街で偶然あの人を見つけ、尾行した。
すると、あの人は大きなビルに入っていった。
警備員が見張るそのビルを見上げる。
どうやって入れるのか。
どうしようもなく、ただ入口で佇んでいた時、誰かが私に声をかけた。
「何か用かな?」
その問に私は答えた。
「この中にいる、ある人に会いたいんです。
赤を魅せてくれたあの人に。」
そう言うと、その人は言った。
「なら、私と一緒に来ればいい。
そういう瞳をしてるヤツは有能だ。」
その人は、この組織のボスだった。
その人の背中を追うようにして入ったその場所は、私の世界をことごとく凌駕した。
「ここにいればいい。
もうすぐ報告にやってくるだろう。」
ボスの部屋だと察した。
優雅に腰を下ろし煙草を吸うボスを横目に、今か今かと待ち焦がれた。
そして……その瞬間はやってきた。