2人は1度顔を見合わせると、逃げていった。



「ねぇ?ボクの獲物、勝手に逃がさないでほしぃんだけどぅ?」



『……お前が一連の事件の犯人だったとはな。』



「ボクは仕事をしてるだけだよぅ?
ねぇ、サラ?」



〈はい。その通りです。
第一神賢者、お初にお目にかかります。
私は第四神賢者の使徒、サラと申します。〉



この礼儀正しい黒兎は、なんで契約者に黒鮫を選んだんだろう。



殺し屋なのに。



〈久しぶりね、サラ。
私の契約者を見るのは初だったかしらね。〉



〈はい。そちらもなかなかおやりになるようですね。
ですが、先ほどの攻撃では私の水球は壊せませんよ?〉



〈それは……どうかしらね?〉



不思議がるサラ。



さっき放った短剣は、黒鮫の持つ水球の中に浮かんでいる。



私はただ試しただけ。









『……外側からの攻撃が効かないことを立証しただけ。
なら、内側からの攻撃には耐えられるかも立証してみるか。』



その言葉で何かを察知したサラ。



〈水球を離してくださいッ!!〉



もう遅い。



私はそっと指を鳴らした。



その合図で、短剣に莫大な量の力が供給される。



そして……。



ドガアァァァアン!!!



水球は内側から破裂した。



〈まぁ、こんな攻撃でやられるほどサラも落ちぶれてはいないわよね?〉



さっきのサラの言葉が頭にきたんだな……ビビ。



煙が舞っていくと、そこには薄い水の膜で防御した黒鮫がいた。



「まさかこんな裏技があったなんてねぇ。
ちょっとビックリしたかなぁ。」



〈迂闊でした。〉



普通の顔して服についた埃をパタパタとはらう黒鮫。



『……秋が嫌い。』



黒鮫の肩が僅かに動いた。



『……それはなぜ?』



「……なぁんで君がそんなこと知ってるのかなぁ?」



その声には明らかに動揺が生まれた。



「それを聞いて君はどうするのぅ?
あの時みたいにボクを助ける?
あのまま……殺してくれれば良かったのに。」



最後はいつものバカにした口調じゃなかった。



切実にそう願うような……。



『……俺はお前たちみたいな殺し屋を許せない。
俺はただ、この事件を終わらせるだけだ。
お前が自分の欲だけで力を奮うなら、全力で阻止させてもらう。』



静寂が身を包んだ。



1つ道を出れば大通りを歩く人たちで賑わっているはずなのに、それはどこか遠い場所のようで。



それだけ私たちの周りは静かだった。



「サラ、今日は帰ろっかぁ。」



〈貴方がそう言うのなら。〉



黒鮫は踵を返した……が、少しして立ち止まり、こちらを振り返った。



「ボクも仕事を全うしてるだけだよぅ。
でも、1つ言うなら……この季節になると疼くんだぁ。
血も、骨も、ボクの全てが秋に対して拒否反応を起こすってだけぇ。」



そう言い残し、今度こそ去っていった。



黒鮫のその言葉の本当の意味を知るのは、そう遠くなかった。