俺には嫌いなものがある。人間だ。大体、人付き合いが苦手なそもそもの理由は人間が嫌いだからだった。

その中でも特に受け付けないのが、若い女とバカと騒がしい奴。見てるだけで不快だし、話しかけられなんてした日には頭が痛くなる。生理的に無理と言ってもいい。

だから、俺は今までそう言う類の人間を極力遠ざけるように生きてきた。その最たる例が高校受験だ。迷うことなく今の高校を選んだのは家から通える範囲で一番偏差値が高かったから。ここなら少なくともバカはいないだろう、とそう踏んで。


「いやぁ、悪いね。ほら、コロッケとメンチって似てんじゃん? 色とか匂いとかさぁ。だからついうっかり。」


けど、現実はいつだって思い通りにはいかない。努力は必ずしも実らない。俺はそのことを改めて実感させられた。


「つーか、あんたまさかこれ晩メシだったりする? ダメだよー、ちゃんと食べないとさー。若いんだし?」


俺の目の前には今、整理的に無理な要素を完璧にコンプリートしてる騒がしいバカ女がいる。


「いくら学生で金ないつっても……あっ、あたしもうすぐ上がりだからさ、ちょっと待っててよ。……廃棄ナイショで分けたげる。」


メンチカツとコロッケの区別もつかないらしいバカ女。なにを血迷ったのかバカ女はそんなことをひっそりと囁いてくる。

その手には今だ俺の袋から抜き取ったメンチカツが握られていて、一向に次の動作に移る気配がない。

いいから早くコロッケ寄越せ、と思いながらも俺はグッとこらえて「わかりました」と返事をする。勿論ウソだ。

けど、メンチカツとコロッケの区別がつかないバカに嘘と本当が見分けられるはずもない。


「よし、待ってな。イチオシの持ってくから。」


まんまと俺の言葉を信じたらしいバカはそう意気揚々と答え、やっと動き出した。