夕焼けの差し込む教室。安田桃子はバカにしたような笑みを浮かべ、嘲笑うように吐き出す。


「冗談で言っただけなのにマジレスしてくんなよ。うざい。」

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ?」


俺は腕を組みドア枠に背を凭れさせながら溜息を吐いた。


「あーあーあー。なに。そーちゃんそんなキャラじゃないじゃん。やめれば? 似合わないから、そういう偽善っぽいこと言うの。」


似合わない……か。
そんなこと俺が一番よくわかってるよ。わかってるけど、しょーがねえだろ?


「話逸らすな。」

「……。」

「こっち見ろ。」

「……真面目な顔しちゃって、バカみたい。ちょっとノリで言っただけじゃん。」


お前みたいなバカに一々構ってやるほど世間も大人も優しくはないんだから。


「ノリ、ね。お前はノリで人を殺すの?」

「はぁ? 殺してねーよ。死ねつっただけだろ。」


正しく生きようなんて思うのは大概間違いを犯した後だ。取り返しのつかない間違いを犯して人を傷つけて自分も傷ついて何の役にも立たない後悔を延々と繰り返した、その後。


「言っただけ?」

「うざいことばっか言ってくるから。死ねばいいと思って、死ねって言っただけ。そんなんみんな言ってんじゃん。」

「へえ。じゃあ、お前の願いは叶ったわけだ?」

「は?」


茜色の空。不気味なほどの赤が空を犯し、不吉な予感を齎すカラスが悠々自適に泳ぐ。

警鐘は鳴らない。警告もない。


「山岸梓は死んだ。」


絶望はいつも唐突に降ってくる。