「1度、右から来た人にぶつかりそうになりました。後は特に無いです。・・・・ずっと変わらず聞こえないまま。」


「そうか。日常生活に不便なことはあるかな?」


俺はふと詩織の顔が頭に浮かんだ。


「不便なことって訳じゃないんですけど、友達に左側に来てって言うと不思議な顔をするんです。当たり前なんだけど。でも、耳のことは言いたくないから。」


「そうか。・・・・・その友達って君の好きな人かな?」


「えっ!?」


俺が慌てて反応すると医者は笑って答える。


「だって、今までそんなに相手のことを気遣った話を話さないのに急にそう言われるとね。その子に耳のことは話さないのかい?」