引っ越し先は、前の小学校に程近い賃貸マンション。
オートロックにもなってない開放的なそこからは、新しく通う事になった高校も歩いて通える距離にある。
「ここが再スタートの拠点だ」
僕は何故だか気合いを入れて、その建物に乗り込んだ。
∴◇∴◇∴◇∴◇∴◇∴◇∴
「何とか生活のための準備は出来たかな」
まだ引っ越しの荷物がうず高く積まれた部屋で、僕は腕まくりを下ろして汗を拭った。
郊外らしい、静まり返った空間がそこには広がっている。
両親が来るまでの一週間、僕は一人で生活をしなければならない。
でも元々共働きで家を留守にすることが多い親だったから、僕は家事全般を一通りこなすことが出来る。
独り寝の寂しさ、不便さよりも、より早く新しい自分を再生する道を選んだんだ。
ピンポ~ン
玄関のドアホンが鳴る。引っ越して来たばかりのウチに来客なんてあり得ない。
───もしかして、早くも新聞屋さんの洗礼かっ?───
余り人と接することに積極的でない僕は、及び腰でモニターを覗いた。
───ん? 女の人だ。管理人さんは男だったし。ヤクル○か、ダス△ンか。富山の薬売りか───
とにかく『親がいないから』って断らなきゃ。
「はい。あ、あの……勧誘だったらお断りするように言われてるんですけど」
『え? 勧誘ってなに?』
カメラを見据えて首を傾げる顔を見て驚いた。
───カ、カワイイ!───
大きな目と小さいけど通った鼻筋、クルクルと縦ロールのかかったロングヘアーはまるでアイドルのようだった。