『弄くり』





「久し振りだなぁ」


 どこまでも晴れ渡った空。考えてみれば、ここの駅に降り立つのも10年振りになる。


けれど、駅前の再開発ですっかり現代的に生まれ変わった駅舎に、当時の面影はない。


「こんなに変わっちゃうと、郷愁も何も有ったもんじゃないな」


 ため息と共に漏らした言葉は誰の耳にも届かずに、秋色の空へと吸い込まれて行った。


 僕は柏木ゆず樹。


 親の転勤で東北の田舎町へ居を移し10年。本店勤務に戻った親と共に、また慣れ親しんだ郊外のこの町に戻って来ることになった高校2年生。


 残務整理やらなんやらでまだ向こうに居る両親を残して1人、居ても立ってもいられなくて先に来ちゃったんだ。


 僕は平均より遥かに低い身長で、体育は一番不得意。


声も小さいし力だって弱いので、田舎育ちの屈強なクラスメイトからは、もれなくの○゙太扱いを受けてきた。


けれど僕には青い色した頼りになる相棒は勿論居なかったから、いつも肩身が狭い思いをしてたんだ。


でも○び太と違って勉強には多少自信が有ったし、クラスメイトも気の良い奴らばっかりだったから、暴力を振るわれたりすることはなかった。


でもね、やっぱり。幼少時代を過ごしたこっちの町が、肩肘張らずに暮らして行けたここの方が……。


僕にとっては有り難かったんだ。