あんな事になる前は、親族の中でも一番に私を可愛がってくれた祖父。
私だけでもこっそり会いに来ていれば、この問題も軟化していたかも知れない。
記憶の中で笑っている祖父よりもかなり痩せこけてしまった、今目前にしているその顔は、明かりが無い所為もあって酷く黒ずんで見える。
「おじいちゃんごめんね? 本当にごめんなさい。
もっと早く伝えに来るつもりだったの。
おじいちゃんには絶対知らせておきたかったから。
私ね、赤ちゃんが出来たんだよ?
8月には、おじいちゃんをひいおじいちゃんにしてあげられるんだよ?
だから、癌なんかに負けないで頑張ってねって伝えたかったのに!
どうしてそれ迄待っててくれなかったの?」
食堂からはまだ母と叔父のいがみ合う声が聞こえて来る。
「何なんだろうね、おじいちゃんが死んじゃってるって言うのに……嫌だわ。
長い間来れなかったけど、おじいちゃんの事はずっと大好きだったんだよ?
はい、好物のタイヤキ」
枕元に道すがら買い求めた紙袋を置き、冷たくなってしまった祖父の手を握り、その頬を撫でた。
すると一瞬辺りが静まり返り、祖父の肌がうすボンヤリと光る。
そして、
「ニヤリ」
祖父は幸せそうに微笑んだ。
「ふふふ、おじいちゃんってばお茶目なんだからっ!」
時計の針は丁度2時を指している。
まさに丑三つ時だった。
《おしまい》