『弄くり』

○感想ノートに入る文字数ということだったのですが、まずダイなりに話を作ってみたのが次からの話です。

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その時、寝静まった夜を切り裂いて家中に電話が鳴り響いた。

「一体こんな時間に何かしら」

突然夢の中から現実に引き摺り出されたその不快感は、動悸を伴って正常な判断力を奪う。

枕元に置いた目覚まし時計を蹴飛ばしながら、ふらふらと覚束無い足取りで電話の有るリビングへと向かい、留守番電話に切り替わる寸前、漸く受話器を手にしていた。

「はいもしもし……お母さん?」

母の余りにも消沈した語勢に、それからの言葉を継ぐ事も出来ず、次の言葉を待つ。

「だからおじいちゃんがどうしたのよっ!」

痺れを切らして聞いてはみたが、本当は解っていた。

祖父は癌を患い、もう長い間入退院を繰り返していたようだ。

今回の発作が起こって、お医者さんから「覚悟はしておいて下さい」と告げられていたらしい事も聞いていた。

こんなおぼろ気な言い回ししか出来ないのは、まだ私が大学生だった頃に勃発した父と祖母との確執から、すっかり母方の親戚縁者とは疎遠になってしまっていたから。

そして私のただならぬ様子を気遣って起きてきた夫にタクシーを呼んで貰い、車で10分程の実家に向かう。

そこからまた更に1時間。母の生家に着いたのは、夜中の2時にもう少しでなろうとしている頃だった。

「なんで自分の親の死に目にも会わせてくれないのよ!」

実家の玄関をくぐると開口一番母が叫んだ。返事の代わりに廊下の奥から顔を出した叔父は、

「姉貴。敷居をまたげただけでも幸せだと思えよな」

と吐き捨てるように言う。

それを受けて彼に噛み付いている母のがなり声をよそに、私は床の間に寝かされている祖父を見付けた。