斉藤道三との会談は、美濃の稲葉山城で行われる。朝早くから出立し、光秀は信長の斜め後ろから着いていく。
とても、とても心配だ…。斉藤道三の娘、濃姫が嫁ぐ際に力を発揮したのは平手 政秀の筈である。しかし、この世界にはその平手が居ないのだ。

…では、誰が縁談を纏めるのか?
例えば重臣の柴田か?信長の乳兄弟の池田か?いやいや、きっと誰かが上手くやってくれるだろう。うん、私じゃないよね。

今回の会談では、光秀はしっかりと準備をさせた。普段着流しや適当な衣服である信長に「どうか今回だけは」と説得し、きっちりと正装をさせた。うんうん、やはり身支度を整えると更に男前だな。

「…明智様。大変な事がございまして!」

そろそろ城に着く頃、慌てて光秀に耳打ちする者が現れた。ええと、彼は若武者で見たな…確か、佐々 成政。男気溢れる勇猛果敢な青年だ。
キリリとした男らしい眉毛は、一度見たら忘れない。

「どうした?何があった?」

「…っは。前触れを行いました所、斉藤家内が何やら騒がしく…よくよく聞いてみれば此方が会談時間に遅れていると申しております!」

「…何だと?」

思わず頬が引き吊り、相手にもう一度問い返す。佐々の言うには、斉藤道三はかなり苛立っており、信長が来たら叩き切るとすら言っているらしい。
まてまて。何故そうなっている?時間も日時も何度も確認したし、先方にも手紙を丁寧に送ったというのに。

内心パニックになりながら、信長に慌てて馬で駆け寄る。真横に並走し声をかければ、直ぐに「何だ?」と返される。端的に説明をすると、驚くどころかニヤリと笑みを返された。出た…魔王の笑顔。

「ほお。それは楽しみだな?」

「…殿。」

流石というべきだが、本当に不味いんじゃないか?斉藤道三に違う時間を報せた者が居る?それとも、彼方に織田と組ませない様に妨害をする者が居るのか…。一人悩んでいると、信長の余裕たっぷりの表情に気づく。

「光秀、何故そう思い悩む必要がある?」

「いや、何故と申されましても…。」

溜め息を押し隠す。現段階、織田家の頭脳と呼ばれる私である。責任重大だろうが。

「…俺と光秀が居る。それで上手くいかぬ筈無いだろう。」

知らず、その前だけ見つめる信長に目を奪われた。本当にずるい男だ…だからこそ、この男に天下統一をさせたい私である。

「全く…期待に応えられる様、善処致しますよ。」


それと同時に城に着き、先触れの声が響くのだった。