ああ、濃は…濃は…ときめき申した!
その状況は見られなかったものの、義龍兄上から聞いた事を思い出して「うふふ」と怪しく笑う。
以前より噂に聞いていた尾張の美しき武将、明智光秀殿と主の織田信長殿の関係。織田殿は、明智殿の有能さと麗しさを気に入り、家臣の中で取り分け目をかけているらしい。何かあれば「光秀」「光」と呼び掛け、側に置くようだ。
今回の私の父上 斉藤道三と織田殿の会談でも、噂に違わぬ有り様だったらしい。会談の時間に遅れた織田殿に立腹した父上は、席も用意せずに、織田殿を迎えたらしいのだが、織田殿は気にせず堂々としていたらしい。
それだけ聞けば、織田信長の豪胆さが知られる所だ。斉藤家の家臣達も、織田殿の噂で持ちきりであった。しかし、濃姫は違う。その後の話しに心を寄せて、その場に居た侍女に何度も繰り返し尋ねる。
「それで?明智殿は織田殿を庇い、織田殿は明智殿を庇い、微笑みあったのですね?」
「はい。というよりは、織田殿が明智殿に微笑まれていた様に見えまする。」
何という事!つまり、主君からの愛に戸惑う美しき武士という事ですね。
内心身悶えながらも、不思議そうな侍女に更に問い掛けていく。
「ごほん。…それで?織田軍の様子はどうでした?」
「はい。ええと、会談が上手く行き和やかに…「では無くて。」
濃姫は自分の趣味をひた隠しに、何とか遠回りに言い繕う。織田軍の中で、どの様な人物が居るか。目に見えての関係性や容姿などを。
実は濃姫の趣味に薄薄は気付いている侍女なので、深く追求せずに素直に答えた。
「…そうですね。前田犬千代殿は、明智殿を慕っているようで常に明智殿を見惚れておりました。」
「…っそうですか(いやあああ!三角関係?!)」
「そういえば、小姓の中に堀という美童がおりまして、常に織田公の側に控えておりました。」
まあ、まあ!それはきっと、織田殿のお気に入りの小姓ね。此処にきてとんだ伏兵が居たとは、驚きましたね。
「…ですが。」
「ですが?」
「その堀も、時折明智殿を横目に見ておりました。」
な、な、何ですって!?つまりそれは、主君から寵愛を受ける小姓が、実はお気に入りの武士を影ながら慕っているという事!
心の中では、床を転げ回る濃姫だが何とか耐え抜く。
「…あと、柴田勝家殿は明智殿を信頼しており…。」
「そう。」
柴田殿って、家老でしたっけ?あの方は危うさが無いから対象外ですね。除外しましょう。
勝手な判断で、濃姫の采配は続く。
「佐々成政殿は男らしい顔立ちで、前田殿とは同僚の様で気軽に話されておりました。佐々殿や前田殿は織田軍では若武者に括られており、彼らは明智殿を特別慕っておりますようです。」
「あら、そう。」
そこで一旦区切り、濃姫は静かに部屋を出ていく。誰も居ないのを確認すると、部屋の中で転げ回った。
あああああああああ!何て言う事!織田軍は私をときめきで殺すつもりなんですの?!聞いただけで持たないというのに、見たらどうなってしまうか!
濃姫が転げ回る頃、話をしていた侍女は疲れた様に呟く。
「…全く。政略結婚を喜ぶのは、濃姫様位でしょうね。」
これでは、松平元信殿や細川藤孝殿の事は口には出来ないだろうと、侍女は溜め息を洩らし、仕事に戻るのであった。
そう。濃姫は明智光秀の元の世界で言う所の、まごうことなき貴腐人なのである
その状況は見られなかったものの、義龍兄上から聞いた事を思い出して「うふふ」と怪しく笑う。
以前より噂に聞いていた尾張の美しき武将、明智光秀殿と主の織田信長殿の関係。織田殿は、明智殿の有能さと麗しさを気に入り、家臣の中で取り分け目をかけているらしい。何かあれば「光秀」「光」と呼び掛け、側に置くようだ。
今回の私の父上 斉藤道三と織田殿の会談でも、噂に違わぬ有り様だったらしい。会談の時間に遅れた織田殿に立腹した父上は、席も用意せずに、織田殿を迎えたらしいのだが、織田殿は気にせず堂々としていたらしい。
それだけ聞けば、織田信長の豪胆さが知られる所だ。斉藤家の家臣達も、織田殿の噂で持ちきりであった。しかし、濃姫は違う。その後の話しに心を寄せて、その場に居た侍女に何度も繰り返し尋ねる。
「それで?明智殿は織田殿を庇い、織田殿は明智殿を庇い、微笑みあったのですね?」
「はい。というよりは、織田殿が明智殿に微笑まれていた様に見えまする。」
何という事!つまり、主君からの愛に戸惑う美しき武士という事ですね。
内心身悶えながらも、不思議そうな侍女に更に問い掛けていく。
「ごほん。…それで?織田軍の様子はどうでした?」
「はい。ええと、会談が上手く行き和やかに…「では無くて。」
濃姫は自分の趣味をひた隠しに、何とか遠回りに言い繕う。織田軍の中で、どの様な人物が居るか。目に見えての関係性や容姿などを。
実は濃姫の趣味に薄薄は気付いている侍女なので、深く追求せずに素直に答えた。
「…そうですね。前田犬千代殿は、明智殿を慕っているようで常に明智殿を見惚れておりました。」
「…っそうですか(いやあああ!三角関係?!)」
「そういえば、小姓の中に堀という美童がおりまして、常に織田公の側に控えておりました。」
まあ、まあ!それはきっと、織田殿のお気に入りの小姓ね。此処にきてとんだ伏兵が居たとは、驚きましたね。
「…ですが。」
「ですが?」
「その堀も、時折明智殿を横目に見ておりました。」
な、な、何ですって!?つまりそれは、主君から寵愛を受ける小姓が、実はお気に入りの武士を影ながら慕っているという事!
心の中では、床を転げ回る濃姫だが何とか耐え抜く。
「…あと、柴田勝家殿は明智殿を信頼しており…。」
「そう。」
柴田殿って、家老でしたっけ?あの方は危うさが無いから対象外ですね。除外しましょう。
勝手な判断で、濃姫の采配は続く。
「佐々成政殿は男らしい顔立ちで、前田殿とは同僚の様で気軽に話されておりました。佐々殿や前田殿は織田軍では若武者に括られており、彼らは明智殿を特別慕っておりますようです。」
「あら、そう。」
そこで一旦区切り、濃姫は静かに部屋を出ていく。誰も居ないのを確認すると、部屋の中で転げ回った。
あああああああああ!何て言う事!織田軍は私をときめきで殺すつもりなんですの?!聞いただけで持たないというのに、見たらどうなってしまうか!
濃姫が転げ回る頃、話をしていた侍女は疲れた様に呟く。
「…全く。政略結婚を喜ぶのは、濃姫様位でしょうね。」
これでは、松平元信殿や細川藤孝殿の事は口には出来ないだろうと、侍女は溜め息を洩らし、仕事に戻るのであった。
そう。濃姫は明智光秀の元の世界で言う所の、まごうことなき貴腐人なのである