晶が連れて行ってくれた診療所は、土曜日の午後でもう診察は終わっていた。けれども、晶は地元の名士なのであろう。口利きをしてくれると、何の問題もなく普通に診てくれた。
診察の結果は、重症の捻挫。でも、骨には異常はないらしく、しばらく安静にして腫れや痛みが引けば、普段通りの生活ができるとのことだった。
それから、晶の好意で古庄家に戻って食事をごちそうになり、絵里花の車のある場所まで連れて行ってもらった。
帰り道での疲労は相当なものだったが、『あと一息』と、絵里花は自分を奮い立たせて車の運転をした。史明もかなり疲れていたとは思うが、来る時みたいに眠ってしまうことはなかった。
けれども、二人の間には会話というものが存在しなかった。昨夜はあんなにも、いろんな話ができたのに、並んで座る車の中には、沈黙が流れるばかりだった。
絵里花が史明を彼の家まで送っていくと、古風で優しそうな彼の母親が出てきて、絵里花に何度も頭を下げてくれた。
「……君には本当に迷惑をかけて、世話になった。ありがとう……」
史明もそう言って、改まったふうに頭を下げてくれた。それに対して、絵里花は何と言って返したらいいのか分からなかった。