日が落ちてしまうと、山中ということもあって一気に暗くなる。焦る気持ちが募って来るのに、いっこうに山中から抜け出せない……。
絵里花の中の不安は、史明も同時に抱えていたようで、立ち止まると思い切ってその不安を口にした。
「……どうやら、完全に迷ってしまっているようだな。これ以上、歩き回るのは危険だ」
「……じゃ、どうしたら……?」
絵里花は息を上げながら、不安をはらんだ呟きをこぼした。
「明るくなるのを待つんだから、野宿するしかない。……どこか、夜露をしのげるところがあればいいんだが……」
「……あ、少し前に歩いて来た途中の斜面に、窪みのようなものがあった気がします」
「よし。そこに行こう」
「……戻るんですか?」
「仕方がないだろう?」
絵里花は、この迷いやすい山中で、そこまで戻れる自信がなかった。だけど、目の悪い史明は、きっとその場所を認識できていないだろう。
絵里花は黙って頷いて、再び史明と肩を組んだ。早く動かないと、本当に暗闇に閉ざされて動けなくなってしまう。
想定もしていなかった最悪の状況……。
明日は土曜日で仕事も休みだから、史料館の同僚たちが異常を知って、捜索してくれることもない。絵里花の車が放置されていることに、古庄さんが気付いてくれるのも、いつになるか分からない。