絵里花にとって、学会という場が初めてなら、その後の懇親会に出るのも当然初めてのことだった。
会場は、ホテルの大広間での立食形式。最初こそ学会の会長や重鎮と言われている研究者たちの挨拶があったが、その後は参加者は飲み物を片手に、自由に動いて交流が図れる。


元来あまり社交的ではない史明も、こういう場は〝慣れている〟とは言い難いのかもしれない。それでも、右も左も分からない絵里花は、ちょこちょこ史明にくっ付いて歩いた。


やはり史明の学会での発表は高評価だったらしく、老若問わずいろんな研究者たちが入れ代わり立ち代わり、史明の話を聞きに来る。そして、その情報はマスコミへも伝わったらしく、新聞記者やテレビ関係の人間からも取材を受けていた。

史明は同じ説明を、苦にせず何度でも繰り返した。研究の説明の途中、時折史明が側にいる絵里花に話を振って、細かいことの確認をしてくれるので、絵里花も放り出されることもなく、自然とその場に打ち解けられた。


すると、時間が経ち、史明の研究のインパクトが薄れてくるにつれて、その場の人々の興味の対象は、〝怪しい〟研究者の史明よりも、その隣にいてとてもアンバランスな存在である絵里花へと向いてくる。