好きな人が自分から遠く離れて行ってしまうのを、進んで手伝うなんて、自分はなんてバカな女だろうと、絵里花は思った。
史明の素顔を見て、そのギャップにときめいて恋をして……。
それから史明と一緒にいる間に、この想いはいっそう強く深くなっていったけれど、この恋は絵里花の心の中から解き放たれることもなく終わってしまう……。
離れ離れになれば、史明はこんな取るに足りない属託職員のことなんて、時の流れとともに忘れてしまうだろう。だからといって、恋人でもない自分が、史明に付いて行くこともできない。
だけど、史明には、その優秀な頭脳を駆使して、その内に潜む能力を存分に発揮できる場で、活躍してほしかった。それも、絵里花の中にある心からの願いだった。
学会へは、史明が副館長にかけ合ってくれて、絵里花も出張扱いになり、旅費も出してもらえた。
史明はこの機会に行きたい所があるらしく、絵里花とは別行動で現地へ向かう。当日は早めに会場で落ち合って、最後の打ち合わせをすることになっていた。
絵里花は、学会が行われるコンベンションセンターに、待ち合わせの時間よりも随分早く到着した。ロビーにあるテーブル席の一つを陣取って、発表の資料のチェックに余念がない。実際、自分自身が発表をするかのように緊張していた。