総合文化センターの朝、廊下にはヒールの音が高らかに鳴り響く。
出勤して来たばかりの職員たちの視線を一身に浴びて、颯爽とスーパーモデルのように歩いて行くのは、望月絵里花、27歳。
「おはようございます!」
明るく張りのある声が響き渡る。
今日も、こなれた感じのファッションに完璧なプロポーションを包み込み、美人を際立たせるメイクで可憐な笑顔を振りまく。
絵里花は、このセンター内の「歴史史料館」に勤めている嘱託の職員。史料館専用の入り口もあるのだが、同じ建物内にある図書館や公文書館の間を縫うように通って出勤するのが、絵里花の日課だった。
そこで働く職員たちは男性のみならず女性も、絵に描いたように美しい絵里花の姿を見て息を呑む。そんな羨望の眼差しを、一身に浴びているのを確認して、
――よし……!
絵里花は今日も密かにガッツポーズをして、気合を入れた。
それから、絵里花の足は「歴史史料館」へ。ここでの絵里花の仕事は、ここで他の研究員同様に研究に勤しんでいるわけではない。史料館の研究室から史料館専用のエレベーターに乗って、寒々しく寂しい上階へ向かう。
そして、重い扉を開いて、収蔵庫の中へと足を踏み入れる。整然と棚の並ぶその中は、窓もない閉ざされた世界。