「抱いてみる?」

初めて柏原家に行った日。

拓海はまだ3ヶ月で、小さくて。

でも、俺は触れるのが怖かった。

あの女のせいで。

俺は赤ちゃんには触れてはいけない存在なのだと。

そう頭に刷り込まれていた。

「はい、どうぞ」

半ば強引に手渡された拓海を俺はしっかりと抱いた。

まだ小学生の俺が抱くには重かったけど。

拓海の、赤ちゃん特有の柔らかい香りが俺の心を包んでくれて。

思わず、拓海の頬と自分の頬を擦り合わせていた。

「拓海、良かったね。お兄ちゃんだよ」

賢司さんが気持ち良さそうに寝ている拓海にそう言った。

『お兄ちゃん』

あの家ではそんな風に言われた事がなくて。

妙にこそばゆい感覚を覚えたけど。

俺は

初めて安堵感のある幸せを感じていた。