「聞きたい事、あるんじゃない?」

歩きながらそーちゃんは私に言った。

「うん…」

繋いだ手を強く握りしめる。

「…そーちゃんはどうして沙織さんと別れたの?」

あのアルバムを見てから、ずっと聞きたかった。

「価値観の違いだけじゃ、ないよね?」

そーちゃんはしばらく黙って歩く。

私も黙っていた。

慌ただしい人の往来を裂けながらチームのパドックへ向かう。

「転倒事故で1年、レースが出来なかった事があったんだ」

唐突に、そーちゃんは話始めた。

「高校を出てすぐ、かな」

私はそーちゃんを見つめた。

その目は遠い過去を見つめるような感じだった。

「沙織は大学生、俺は社会人で生活は完全にすれ違っていた。
今から考えると高校で終わっていたのかも
退院してから、病院に定期検査に行った帰り。
沙織が隆道とホテルから出てきたのを見た時に俺の中では終わったんだ」

そーちゃんは淡々と言い放つ。

「レースに出れない間に二人は仲良くなってたんだよな。
だから俺は、沙織に別れる、と言ったんだよ」

ふ…複雑。

三角関係だったわけか。

「そーちゃんは沙織さんに現場を見た事、言わなかったの?」

私は立ち止まった。

歩いて話をするほど、軽い話題じゃないと思ったから。

「…言わないよ、沙織にも、隆道にも。
二人がお互いに想っているなら、それでもいいと思ったから」

そーちゃんも立ち止まって一歩遅れていた私を振り返った。

「お人よし…」