私はこんな身で、葉月に触れていいと思わなかった。
そして、どうやって葉月に触れて良いのかが、わからなかった。
「久しいな。」
私は目を細め、葉月を慈しむように葉月の姿を目に焼き付けた。
面影も何も残っていなかった私の頭の中へと。
葉月はどこか安心した顔をして、口を開いた。
「お久しぶりです。勇さん。」
そして、私が、忘れてしまった微笑みを見せたのだ。
「歳、何故、葉月がここにいるのか?」
葉月の微笑みを見て思いだした。
私は薄汚れた世の汚い役を引き受ける新選組の局長なのだと。
「かっちゃん…。まだ、聞いてねぇーよ。」
歳は、私が、もっと長く葉月の顔を眺め続けると思っていたのか、少し驚いた顔をしていた。
歳は私の気持ちに気付いていた。
例え、妻子ができ、所帯をもったとしても、忘れることの出来なかった葉月への私の、狂おしい程の想いを。
私が葉月を慕っていることは、歳にしか、分からないだろう。
私は、葉月への感情をあまり、外には、出さなかったし、私は妻子を愛しているような素振りを見せていたから。
さすがに、歳を騙すことは出来なかったし、私は騙そうとも思わなかった。
時に厄介なことにもなるが、少しでも、私の葉月への想いを気付いている人がいた方が、楽だったからだ。
私がそんなことを考えていると、葉月から、声がかかった。
「勇さん、私、今までのことをはなしますね。」
葉月は突然そう言った。
「私がどこの何者なのか。そして、何故、私が長州藩の大物といたのかも全て。」
葉月はあの、凛とした声で、何かを決断したような瞳で言った。
「まず、言っておかなければならないことは、私が今から話すことの全ては、本当のことです。無理に、信じなくてもいいのですが、信じてもらうしか、ないのです。」
私は、そう言い、話を始めようとした。
だが、先程から気になっていたことがあった。 「勇さんと惣ちゃん。お座りください。」
私に再会して、驚いた勇さんはさっきから、立ったままだった。惣ちゃんは、惣ちゃんで、勇さんに気を遣ってか、ずっと立っていた。
気を取り直して、私は、これまで私の身に起きたことをすべて話し始めた。
20**年、春
私は、菊池家の三女として産まれた。私は、両親に顔立ちが全く似ておらず、また、両親の愛情もそれほど受けず育った。その理由は、両親が政略結婚をしたからだ。
この、平和な世の中では、政略結婚なんて、いつの時代だよって言いたくなるかも、知れないが、本当に両親は愛のない結婚をしたのだ。
だが、跡取りとなる長女、天才的な頭脳を持つ次女だけは、両親に見守られて育った。
シンデレラみたいだが、私の姉は、私を嫌い、いつも、嫌がらせをしてきた。
私の持ち物にいたずら書きされることは、多々あった。
私は、それが原因で、いじめを受けることになった。