しかし、島田も、こんな時間帯に長州藩の大物をよく、連れてきたな。
監察方は、夜目もきくというのか?監察方も、歳の管理下のもと、組織されているので、私は何もしらなかった。
新選組のことが、また一つ分からなくなったところで襖の奥から、声がした。
「近藤さん。」
総司の声だった。
総司は、歳と共に、大物の聴取に張り切って出掛けたのだが…
「どうした?総司?」
私がそう声をかけると、沖田は襖の奥で、再び声を発した。
「歳さんが、お呼びです。」
珍しい。長州の者は歳の目にかなったのか?
どちらにせよ、歳が私を呼びつけるのは、珍しいことであった。
歳は、私に用があれば、歳がやってくるのだが…
「分かった。今、行く。」
総司にそう、声をかけた。立ち上がり、襖を開けると、幾分か、顔色の優れない総司がいた。
「総司、具合が優れないか?」
私がそう聞くと総司は頭を左右に大きく振った。
「いえ、大丈夫です。…」
総司は昔から、貧弱な体をしていた。
そして、病にもあまり強いと言える体つきをしていなかった。
総司の悪いところは、それを隠すところだ。そして、剣術の稽古を重ね、病状がさらに、悪化し、しまいには倒れる。
その後、10日ほど、稽古を休むこともあった。
だが、我慢強さは武士に必要である。
「そうか、辛くなったら、言いなさい。」
私は、総司にそれだけ言い、歩みを進めた。
総司も後ろからついてきたが、いつものような、はつらつさはなかった。本当に具合が悪いのだろう。
歳の部屋の前につくと、私は、歳に声をかけた。
「歳、入るぞ。」
「あぁ。」
歳のぶっきらぼうな声が聞こえたところで私は、襖を開けた。
そして、歳に近づいていくと、歳の前に誰か座っていた。
「歳、何用だ?」
私は、歳の前て座る人物に目をむけ、ながら、歳にそう、なげがけた。
「かっちゃん、島田がとんでもない間違えをしたようだ。」
歳はそう言うと、あごで、人物の顔をみろと、私に指示した。
私は、言われた通りに人物の顔を覗きこんだ。
時が止まった。
「……。」
葉月だった。それも、昔と全く変わらない姿だった。
変わったとするなら、葉月に目線を向ける私の心情であろうか。
私の心情は複雑だった。
私は葉月と離れてここ6年で、人を殺したし、汚いことも、たくさんやってきた。
私はこんな身で、葉月に触れていいと思わなかった。
そして、どうやって葉月に触れて良いのかが、わからなかった。
「久しいな。」
私は目を細め、葉月を慈しむように葉月の姿を目に焼き付けた。
面影も何も残っていなかった私の頭の中へと。
葉月はどこか安心した顔をして、口を開いた。
「お久しぶりです。勇さん。」
そして、私が、忘れてしまった微笑みを見せたのだ。
「歳、何故、葉月がここにいるのか?」
葉月の微笑みを見て思いだした。
私は薄汚れた世の汚い役を引き受ける新選組の局長なのだと。
「かっちゃん…。まだ、聞いてねぇーよ。」
歳は、私が、もっと長く葉月の顔を眺め続けると思っていたのか、少し驚いた顔をしていた。