だが、別れは突然だった。








そう、葉月と逢瀬に出かけたあの日、確かに葉月と試衛館へ帰った。

そして、共に夕餉を食べ、葉月に風呂を沸かしてもらった。その風呂に浸かりながら、葉月との逢瀬を思い出していた。
たまに聞こえてくる葉月の
「湯加減はいかがですか?」
という声が心地良かった。
「葉月、また出かけような。」

私が葉月にそう尋ねると、彼女は言った。
「そうですね。私もまた、勇さんと出かけたいです。」

ゆっくりと時間が流れていった。

いや、時の流れは早く、逆らえなかったものだったかもしれない。






葉月はまた、
「湯加減はいかがですか?」
と尋ねた。

私は、いつものように『いい湯加減だ。』と言おうとした。
だが、珍しく、葉月が私の言葉を遮った。
「勇さん。私、…」

その言葉は続くことがなかった。

「葉月?どうした?」
返事はいつまで待っても、返ってこなかった。
嫌な予感が、した。

「葉月?どうしたんだ?」
再び、返事は返ってこなかった。

私は急いで湯をあがり、浴衣を召し、風呂の通気口へ言った。

そこには、葉月が、いなかった。

嫌な冗談だと思い、台所や、葉月の寝床へ向かったが、葉月はどこにもいなかった。





そう、桜が散る頃、彼女も共に、消えたのだ。

















これが、嶋崎勇としての最後の出来事であった。






幕末、一人の男の元に後に名を残す人物達が募った。
彼らはその男の人柄に惚れたと言う。


だが、もしかしたら、彼らはその男がたまに見せる儚さに興味を湧かされたのかもしれぬ。
1860年
「勇、お前もそろそろ嫁をとらんといかんだろう?」
我が師の近藤周助は、私にそう告げた。

「そうですね。私もそろそろ考えていい頃だと思っておりました。」