だが、私は葉月が医術を学んでいるなどとは露にも知り得なかった。

「なんでも、沖田先生の看病をしたいそうで。」

私は山崎の言ったこの言葉に嫌な予感を覚えた。

「お歳も近いですし、沖田先生は花街に見向きもしないのはそこにあるのでしょうかね。

お二人が一緒にいると絵になるように美しいですよね。

お二人には末長く幸せであって欲しいものです。」




…………山崎に非はない。

だが、他人にはそう見えていたのかと思うと、

胸が痛くて仕方がない。


「そうか…」

私が返すことができたのはこれだけだ。

山崎も何か感じ取ったのか、これ以降は何も話さなかった。

腕を撃たれたことや、葉月と総司のことで幾分か気が滅入っていたが、

この後これ以上にない屈辱を味わうことになる。





「近藤局長は大阪城で総司と葉月と共に療養を

なさるように。」

トシから放たれた言葉は胸に強く突き刺さった。

「……お受けいたす。」

だが、トシにも面目はあるし、信頼もある。

新選組の大戦に私は出席出来ないだろうという

屈辱を私は味わうのだろうが、トシの策なら仕方あるまい。

このときの私は葉月と共にいられるのならと甘えた感情を抱いていた。

だが、慶喜公がお逃げになったことや、新選組の大敗でこれ以上にない屈辱を味わった。

仲間もあまたに及ぶほど亡くした。

そして、私達も二度目の青春を過ごした京から

逃げた。




「私は大久保大和だ。」

私は死に際までそれを訴えた。

しかし、もちろんそれは受け入れられることがなかった。

結局私の生涯は幕臣の大久保大和としてではなく、

人殺しの大悪人近藤勇として死ぬのだろう。

その証拠に私は切腹することさえ、許されず、

罪人に処される斬首刑をくらった。

そんな状況で最期に思い返すのはやはり…









葉月…









新選組いや、甲州鎮無隊のことを心配するのが

局長としての、武士としてのあるまじき姿なのであろう。

しかし、隊は歳に任せたから、心配あるまい。

私がそれより心残りなのは、葉月の遺体だ。

私は私よりも若く、先に逝った葉月を私は葬ることが出来なかった。








葉月は労咳の知識は山崎が船の上で亡くなる前に充分に習得していた。

しかし、葉月はどこか労咳に対して己を犠牲にしてもよいという余裕があった。

以前その事を葉月に指摘すると、

「私はかかりにくいのです。」

と言って笑った。

どこからそのような自信が湧いてきたのだろうか。

私は葉月をこれ以上なく心配していた。


そして、葉月は労咳にかかってしまった。

葉月のあの自信は総司のために身を尽くしたいという

気持ちから来たのだろうか。

葉月は支えたいと思っていた総司よりも早く逝った。

私は葉月の最期の苦しみの混じった笑顔が記憶に強く残っている。

彼女の遺体は総司に任せた。

ゆっくりと葬儀をしてあげたかったが、

時代は私にその時間は不要だと言った。