首が落ちた。
何の風情もなく、重力に従い、只下へ下へと。
所詮、人殺しの死に様はこんなもんだ。
美しくとも何ともない。
俺もこんな風に死ぬのか
と呑気に考えていた男がいた。
その男は当時最強とも言われた薩摩の示現流
を遣う何人もの警備を物ともせず、すべて倒した後に
落ちた首を大切に拾い上げた。
「仲間の首は俺らで護るさ…近藤局長。」
男は首を桶に仕舞うと、それを持ち上げ、足早に立ち去った。
その者が誰であるか誰も分からなかった。
だが、流派を持たぬ無外流を左手で遣っていたらしい。
誰もがその者がかつて京の街を騒がせた新選組の斎藤一
であると気づかなかった。
何故ならば、彼はその時、会津で闘っている
と誰もが信じていたからだ。
恐れていた出来事が起きた。
局長である私が撃たれてしまった。
私は、身体の傷より新選組局長の名に
傷が入ってしまったことが不甲斐なかった。
だが、私が心の奥底から葉月に逢いたいと願った。
すると、島田魁が馬の尻を叩き、
獅子奮迅の勢いで走らせた。
途中も何度か撃たれそうになったが、
私は決して手綱を放さなかった。
島田のその行為で少しは局長の名に着いてしまった汚名は
挽回できただろうか?
「近藤さん、よく帰ってきたな。
やっぱり近藤さんは人間じゃねぇーや。」
憎まれ口を叩く歳だが、副長の立場としても、
盟友としても、落ち着かなかっただろう。
よく、新選組の留守番をしてくれたものだよ。
「土方くん、よくぞ新選組を護ってくれたな。」
平隊士がいる手前、トシとは呼べぬ。
「局長、腕の手当てを致します。」
新選組の医師である山崎烝が弾が入っている
右手の方をがっしりと掴んだ。
今までは意識しないようにしていたが、
掴まれると刺すような痛みが身体中を響き渡った。
だが、平隊士がいる以上、顔に出すことましてや、
声を上げることは、出来なかった。
私の我慢に気が付いた山崎は、
私を清潔な部屋へ連れていった。
私は部屋に入ると、真っ先に葉月を見付けた。
「い、勇さん。何やら外が騒がしいと思ったら…」
葉月はまだ私の腕のことを聞いていなかったようで、
とても驚いた顔をしていた。
「菊池!~と~を用意しろ。」
何やら、私には聞きなれない医術言葉らしきものだったが、
葉月には、聞き取れたのだろうか?
「は、はい。ただ今お持ち致します。」
葉月は足早に立ち去った。
「山崎くん、葉月は何故医術の言葉が理解できたのだろうか。」
私が右腕の痛みを我慢して、
山崎の顔を見上げて尋ねた。
すると、山崎は意外そうな顔をした。
「菊池のことをご存じなかったのですか?
私はてっきり、近藤局長に頼まれてのことだと
思っていたのですが…」
話の主旨が全く見えなかった。
山崎は何を言いたいのだろうか?