「永倉くん。剣をあわせようじゃないか。」

道場へ行き、池田屋事件後も、毎朝欠かしていない

素振りをした。

一人の道場ではその音がやけに大きくきこえた。

幾分か私が集中していると、道場に人の気配がした。

そこには…

永倉くんがいた。



おそらく、葉月が呼んできてくれたのであろう。

そしてことの成り行きで私と永倉くんは剣をあわせた。

血を知った永倉くんの剣術は、試衛館の時よりも

無駄がなく、一撃が重かった。

だが私は幾分か撃ち合った後で永倉くんに一撃を入れ、

勝利した。

「やはり、近藤さんには勝てねぇーぜ。」

永倉くんは爽やかな笑顔で言った。


「永倉くん、今まで悪かったな。」

道場には沈黙が流れた。

「驚いたぜ。

あんたは頑固だから、謝らないと思った。」

「私も、悪いと思ったら謝るぞ。」

「あぁ。そうだな。今回は近藤さんが悪いぜ。

建白書を出されたからといって、

若い隊士を切腹させるのは必要なかっただろうがよ。」





「本当は、近藤さんに声かけられても何も話さない

つもりだったが、近藤さんも卑怯だな。

葉月をつかうなんて…

あんな必死な葉月見たら、放っておけねぇよ。」


私はまた、葉月に助けられたのだな。





一見、永倉くんとの仲は戻ったようにも見えたが、

入った亀裂は直すことが出来なかった。









伊東甲子太郎の入隊、山南の脱走、屯所の移転、

伊東の離脱、平助の裏切りなど様々な事があった。

だが、何よりも…

「総司、寒くないか?」

私の愛弟子である沖田総司が死病の労咳を

患ってしまったことで、

新選組崩壊の歯車の音がはっきりと聞こえてきた気がした。







首が落ちた。

何の風情もなく、重力に従い、只下へ下へと。

所詮、人殺しの死に様はこんなもんだ。

美しくとも何ともない。

俺もこんな風に死ぬのか

と呑気に考えていた男がいた。










その男は当時最強とも言われた薩摩の示現流

を遣う何人もの警備を物ともせず、すべて倒した後に

落ちた首を大切に拾い上げた。

「仲間の首は俺らで護るさ…近藤局長。」


男は首を桶に仕舞うと、それを持ち上げ、足早に立ち去った。

その者が誰であるか誰も分からなかった。

だが、流派を持たぬ無外流を左手で遣っていたらしい。
















誰もがその者がかつて京の街を騒がせた新選組の斎藤一

であると気づかなかった。

何故ならば、彼はその時、会津で闘っている

と誰もが信じていたからだ。