最後の部分は皮肉をこめて言ったため、
勇さんは苦笑い、総ちゃんに至っては、土方さんをからかっていた。
あぁ。ここは、やはり暖かいなぁ。
時は、幕末。
ある二人の男女がいた。
男はどこに行っても美男子の噂をたてられるほど、美しいが、
女はどこへ行っても、ひどい顔と噂をされた。
正反対の二人だからこそ、引かれあったのかも、知れない。
女は男の盟友の妻だったが、夫は、他に愛している人がいると知っていた。
そのため、夫の盟友でも、拒まなかったのだ。
二人の間には、子が産まれたが、夫の子として育てられた。
その子の名は、近藤 たま と言った。
皮肉なことに、たまは、明治時代、芸子となり
戸籍上の父親を斬首刑に処した者達の人気を集めた。
そして、実の父と戦った者達をも、虜にした。
そこまで言えば分かるように、たまは、美人であった。
それは、たまが、実の父である土方歳三に似たから
かも知れない。
昔から、ずっと知りたいと思っていた葉月の過去が明かされた。
だが、葉月は何故、あんなにも避けていた自分の過去を話す気になったのだろうか。
「葉月、何故、貴方は、過去を明かすことをためらわなかったのか?」
葉月は少しだけ微笑んで言った。
「何故なら、再び勇さん達と笑い逢うには、
まず、私の出生を理解してもらうべきてしょう?
私はもう、何も話さず、ここにいたいという感情だけで、居座り続けるなんて甘いことは、いたしません。」
あぁ、こんなにも葉月の目は美しかったのか。
貴方の決心は、私や歳、総司の心を鷲掴みにした。
それと同時に皆、綺麗な瞳の葉月から、目を反らしたくなった。
私達の汚い心で、貴方を汚さぬように…。
「葉月、再び私達の身の回りの世話をしてくれないか?」
私のこの言葉には、多少下心があったのだが、葉月は受け取ってくれるだろうか。
「嬉しい。また、みんなのお役にたてるんだね。」
葉月は極上の笑みと共に私達に言った。
「ダメだ。かっちゃん。」
意外にも歳が反対した。
私は少し不機嫌な顔をして、歳を見た。
「何故だ、歳?」
「葉月が女中をすることは、構わねぇむしろ頼みたい位だが、ここは男所帯だ。隊内の風紀が、乱れることは、避けたいんだよ。」
歳がそう言うと、妙に納得してしまった。
私はどうしようかと出方を窺っていた。
意外にも、総司が話し始めた。
「嫌だなぁ歳さん。葉月ちゃんのことくらい私達で守れるでしょう?もしも、葉月ちゃんに何かするヤツがいたら、私が斬っちゃいますよ。」
総司は笑顔で物騒なことを言った。
いまいち総司の道徳教育に私は 手を抜いてしまったかとも考えたが、
これが総司なりの葉月への思いやりだろう。