耳を澄ますと、確かに誰かの足音が聞こえた。

この特徴のある足音はやはり、私も勇さんとしか思いつかなかった。

そして、懐かしいあの声を聞いた。
ゆっくりと、ゆっくりと彼がこちらへ近付いてきた。

もっと早くと思うが、彼の少しまったりとした足音は余り、変化しない。

まぁ、それが勇さんだから、許してあげよう。

そして、彼と目があった。
懐かしい彼は、少し年をとっていた。
だが、私は姿があまり変わっていないと思う。

なぜなら…
私はこの時代に初めて来てからまだ、5時間12分しか、経っていないからだった。



頭の中の整理は整った。

私が過去にどのような世界を過ごしてきたのか。

彼らに理解されるだろうか。














「まず、言っておかなければならないことは、私が今から話すことの全ては、本当のことです。
無理に、信じなくてもいいのですが、信じてもらうしか、ないのです。」

私は、そう言い、話を始めようとした。

だが、先程から気になっていたことがあった。

「勇さんと惣ちゃん。お座りください。」

私に再会して、驚いた勇さんはさっきから、立ったままだった。
惣ちゃんは、惣ちゃんで、勇さんに気を遣ってか、ずっと立っていた。



気を取り直して、私は、これまで私の身に起きたことをすべて話し始めた。

「信じられないと思いますが、私は今から約 150年先の未来からやって来ました。

その時代で、私はあまり良い暮らしをしていたとはいえませんでした。

私が産まれた家柄は、平安の時から続く由緒正しい旧家でした。
そのため、父と母は望まぬ結婚をしました。

この時代では、は当たりのことですが、私の時代では、とても、珍しいことなのです。

そして、父と母は私を愛してくれませんでした。

跡取りとなる長女や、頭のきれる次女はとても、大切に育てられましたが、
両親に顔が似ておらず、なんの取り柄もない私に、両親は振り向きませんでした。
また、私は、実の姉達から嫌がらせを受けていました。
物を隠されることや、私の持ち物に落書きをされることは、日常茶飯事でした。

私は持ち物に落書きされたのが原因で、寺子屋や、藩校のように、学びを受ける場でも、嫌がらせをされました。
私を庇ってくれる人は誰もいませんでした。

そんな、私の趣味は、読書をすることでした。
私はある本に出逢い、
″幸せになりたい″
と願ってしまったのです。

そして、気が付くと、私はあの神社にいました。
私は神社にたどり着いたあの日から、とても幸せな時を過ごしました。
しかし、勇さんと出掛けたあの日…
私は勇さんにある言葉を伝えようとしました。

″私は、今、とても幸せです″
と…

私が幸せになったことで、私の願いは叶ったのです。

私の推測ですが、私をこの時代に連れてきた何かが、願いが叶ってしまった私を元の世界に戻したのではないでしょうか。



こうして私は元の世界に戻ってしまいましたが、
再びある願い事をしたことで、この時代にたどり着いたのです。

しかし、私はあの神社ではなく、京の街に着いたのです。
恐らく、私の願いを叶えるためには、そうする方が良かったのでしょう。

私は、体調はなんとも無かったのですが、何故かその場に倒れてしまいまいた。

そして、偶然道を通りかかった松浦先生に助けられたのです。