後ろから、抱きすくめられた。
もがいても、離してくれず、その力は男性だった。
「…なんでいなくなった」
その声は震えていた。
涙声になっていた。
「……離して」
「答えろよ!!!」
「……っ!!離して!!あなたはちゃんと普通の恋しなきゃダメなの…」
叫ぶように放った唇が、塞がれた。
正美と女の子がひゃっ、と両手で口元を押さえる。
「……っう」
押し付けられるように、不器用な唇。
けれど、ありったけの想いが伝わってくる。
そして、
ふっ、と離れる。
「ちゃんとってなんだ」
「…ちゃんとは、ちゃんとよ」
「俺のちゃんとは佐那じゃダメなのか」
言葉もなく頷く。
黙って離れると、彼女の方に向かう。
「もう来ないから」
無表情にボソッと言うと、店を出ていった。