そもそも。きつく言えない理由があった。


―――3ヶ月前。


大切な会議の日。
いつもより一本早く乗った電車が人身事故で遅れ、運悪く携帯電話の充電をし忘れていた。困り果てていたとき。


「これ、使いますか」


ふと、目の前に差し出されたスマートフォン。


「えっ!?でも…」


「何か困ってそうだし。よかったら使ってよ。履歴は目の前で消すから」


大学生くらいだろうか。ラフな服装。ふわりとした髪。無邪気に微笑むその顔に、


「………ありがとう。助かる」


何かあったときのために、スケジュール帳に常備している名刺を頼りに会社に電話を掛け、事情を説明した。


登録だけして安心してはいけないと。


電話番号なんて、全部覚えているわけではない。