そして、もやもやとしながらも適当に雑談をして、その日は帰宅した。
―――翌日。
「おはよ」
開店早々、背後から声を掛けられて驚く。
この前と変わらない、人懐こい笑顔で、お店の入り口に立っていた少年。
薄手の綿のジャケットをスゥエット地のパンツで着崩した格好も、それなりに様になっているのはセンスとモデルがいいからだろう。
「あの…」
「やっぱ、来ちゃった。佐那ちゃんに会いたくて」
「はい!?っていうか、どうして名前…」
「電話番号からお店の名前ネットで検索して駅から逆算してお店調べて。昨日ここに来て。助けてくれて名前も言わずに去っていったお姉さまにお礼がしたい~!!ってお願いして、教えてもらったの」
わざとらしい身振りを交えて、おどけたように話す。
「人の個人情報を…」
ふう、とため息をつき、円香をじろりと睨むけれど、奥の方で商品の整理をしていて気付いてもいない。
「どうせ名札は付いてるけどね。特徴言ったらすぐに佐那ちゃんだって」
言われて今さら意味もなく反射的に名札を隠す。