「初めまして、店長の陽介です」

『初めまして』

「俺、戻ります」


と、

陸は仕事に戻るみたいで、事務所から去っていった。








陸がいなくなって、いきなり不安になった。



私の得意な人見知りが出て…

何を話せばいいのかわからず、あたふた。





とりあえず、

『初めまして、紗菜といいます』


と、

精一杯の自己紹介をした。








恰好も恰好だし…

コミュニケーションもいまいちだし…






受かると思ってないから、どこか開き直っている自分がいた。











と、

思っていたら



「陸の紹介という事で…いつから働けるかな?」


って、

予想外の問いだった。







え?これって…

ここで、働けるって事?



やっぱり、陸の圧力って事ですね…


目の前には大好きな海。

幸せだな、と実感していた。







『いつでも大丈夫です』

「じゃ、来週からお願いしようかな」

『はい。ありがとうございます。』





って事で、

急だったけど、来週から働く事になった。






「初めは陸と同じシフトで大丈夫かな」

『はい。わかりました』














『それでは、来週からお願いします』

「はい」




面接が終わり次第、

浜辺を散歩しながら…ゆっくり帰宅した。





とりあえず、無事に終わって一安心した。










家に帰り、いつもの定位置でテレビを見ていると、陸が帰宅した。






『来週からになった』

「うん、聞いた。」

『あと、陸のシフトと同じって』

「聞いた」





…なら、何も言わない。





陸がいるからそこまで、不安はない。




それに、大好きな海。

正直、楽しみしかない。











とは言っていたけど…前日になってみると、やりたくない病が発病した。






気持ち的には、楽を求めている。




でも、ここにいる以上はやらなくてはお金がなくなる一方。




いつかはやらなくてはいけない。

それが今だけっていうだけ。







面倒くさがりの私が、「前向き」に考えて…次の日を迎えた。






頑張らなくては。











陸はサーフィン終了後にそのままバイトに直行するため、8時前に店で待ち合わせ。




…と、なった。







余裕をもって10分前に家を出て…のんびり、歩いて…お店に向かった。




ら、既に陸の姿があった。

陸の第一声はまさかの「遅い」だった。







『すいません』




一応、お仕事上は先輩だから謝る。

でも、この偉そうな感じがうざかった。








初日は優しくて、気遣いできる男だったけど…深く関われば関わるほどこういう人。




日が立つにつれて…

少しずつ、本性が現れ始めた。













面倒くさがり屋なのか…

それとも、元々こういう性格なのかはわからないし、理解しようとも思わない。





とか、

余計な事を考えていたら…



突然、「これはここ。これはこう」って雑な説明をされた。





『わからん』

「馬鹿?」

『馬鹿だよ』






ここで、兄弟喧嘩をしていても馬鹿馬鹿しい話だし…目の前にはお客さんがいる。




『覚えた』

「はい。次」




雑な説明は山ほどだった。


今日だけで、

馬鹿な私は覚えられる事が出来なかった。





いや、逆に覚えられる人がいたら会ってみたい。




色々仕事を覚える中で、仕事内容が楽ではないっていう事を初日から知られた。




楽な仕事はないと思うし、楽だとは思っていなかったけど…

大好きな物が一つでもあったら、少しは楽しくなるかなっていう安易な考えがあった。













たぶん、人不足という事で…私を誘ってくれたのだろう。




海の家では、

店長の陽介さんと、陸と私と…もう1人。





私より1つ年上のえりさん。

よく、海の家にいそうな若い感じ。







私を含めての4人で回しているけど…それでも大変だった。





海何て見ている暇なんてなかった。




初日からして、

『辞めたい』と思ったけど…


そんな事を言ったら陸に怒られそうだから頑張るしかない。
















1週間くらいは仕事を覚えるので必死。

陸の後を着いていく事で精一杯だった。




だけど…それがウザかった様で、何度嫌な顔をされたのかわからない。




ウザイって、

陸だって新人自体はあったはずなのに…


自分が、逆の立場になったらこういう態度を取って本当嫌な奴だった。





早く仕事を覚えたくて…仕事終わり、店長に聞く日々が続いた。





『ありがとうございます』

「明日もよろしくね。」







一番優しいのは店長。



私の心の支えは店長。

言い過ぎかもしれないけど…本当の話。



えりも陸と同じニオイがするからあまり近づかないようにしていた。














陸とは帰ってからも、顔を合わせる。



それは同じ屋根の下で住んでいる以上仕方のない事だけど…できるだけ顔を合わせないようにしていた。




だって、

最近は顔を合わせるたびに口喧嘩をする日々。








葵ちゃんと美波さんは


「ほんと、兄弟みたいだよね」

と、

言われたけど…こんな奴と兄弟にもなりたくない。