私の隣の席には、所謂不良と呼ばれる問題児君が居ます。
「あー、かったる」
顎に手を当て、空を見上げる彼の髪はキラキラと光っている。
うちの学校は別に髪を染めてもいい。でも彼のような金髪は少ない。
開けた窓から風邪が入り込んでくる。なびく髪が光るのを見ながら、きれいだなぁっと本音がポロリ。
ジーッと見つめていると、振り返った彼にギロリとにらまれた。
「なに見てんだ」
『いや、綺麗な髪だなぁって。シャンプーってなに使ってます??』
「は??」
『狼君。今日の課題ちゃんとやってきましたか』
朝、学校に登校すると彼はいつもの様に伏せって寝ていた。
彼とは私、三浦望《ミウラ ノゾミ》のお隣さんである大神健太《オオガミ ケンタ》君の事。クラスどころか他の学年からも恐れられている問題児。らしい。
「うっせぇな」
鋭い目つきがこちらに飛んでくる。が、気にしません。
『してきましたか??してきてないんですか??』
「してねーよ」
ツンツンッと腕をつつくと、面倒くさそうに彼は頭を起こした。
「なんだ、やってねーことに対しての説教かよ」
『いいえ、見せてもらおうと思って』
「お前もやってねーのかよ」
鋭いツッコミにえへへッと頭をかいた。
『さぁ、レッツスタディー』
ペンケースと課題のプリントを出す。
「お前、高校生とは思えないほど発音悪いな」
うっさいほっとけ。
『早く!!教えてください狼君!!』
「とりあえず、俺は大神な」
狼君、大神君は不良とは思えないほど勉強が出来る。いや、不良=馬鹿だと私が勝手に思い込んでいただけだった。
『え??何でこうなるの??』
「お前、よく高校は入れたな」
『え、英語は苦手なんだよ』
必死に反論すが、軽く鼻で笑われる。嘘でーす。全教科苦手でーす。
何とか大神君の力もあって課題を終らせた。力もあってって言うか、九割がた大神君のおかげだけど。
時は流れ、お昼休み。
「ねぇ、なんであんな怖い人と平気で話できるの!?!?」
仲のいい子と教室でランチタイム。大神君は、居ない。屋上とか人気の無い場所で寝てるんだと思う。
『怖い人。怖いかな、いやいや課題も手伝ってくれるし、悪い人じゃないよ??』
モグモグと口を動かしていると、友達は口をあけて固まった。
「……ッ!?課題手伝ってくれたの!?!?」
『大神君頭いいから、先生より教え方うまいと思う』
「女はとっかえひっかえ、やばい連中とも繋がってるって噂もあるのよ??」
『やばい連中ってなに??』
「わかんないけど!!とりあえず、気をつけなさいよ!!」
真剣な表情の友達に、とりあえず頷いた。
といっても、見た目は派手だけど。大神君が悪い人には見えないよなぁ。
五限目の授業中。チラリと横を見る。
派手な金髪、耳のピアスの量は異常だし、目つき悪いし、髪の毛は左右対称じゃないし。髪は関係ないか。
やっぱり、見た目だけで噂が一人歩きしてるんじゃない??
「なんだよ、さっきから鬱陶しい」
『大神君、左だけ髪の毛切られてますよ』
「……コレはこういう髪型なんだよ」
『てゆーか、シャンプー何処のですか??』
「話が飛びすぎだろ」
『ピアスいくつあいてるんですか??』
「右が……って関係ねぇーだろ」
ほらやっぱり、本当に怖い人なら、こんなどーでもいい話付き合ってくれないよね。
あーー、やっていけない。もう終った。
夏休みを目前にし、騒ぎ始めた一同を震撼させた
《期末考査で赤点が一教科でもあるものは、補習》
「残念だな補習」
『もうすでに、補習決定なの!?そこは勉強見てやろーか??って聞くとこではないだろうか!!』
「なんで、俺がお前の勉強見てやんなきゃいけねーんだよ」
『お隣さんに対して、辛辣!!補習になったら、三日三晩呪ってやる!!』
「辛辣はお前だ。どんだけ理不尽なんだよ」
『補習嫌、補習嫌、補習嫌、補習嫌、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
「怖ぇーよ」
ブツブツと呟いていると、大神君はハーッと大きなため息をついた。
「教えてもらいてーんなら、言う事あるだろ」
言われるやいなやその場で土下座して、お願いしまーーすと叫んだ。
「おまッ!!やめろ!!プライドねーのかよ」
珍しく動揺した大神君に、起こされ椅子へ座らされた。プライドなど、補習を前にあるはずが無い!!!!
時は流れ、放課後。クラスメイトのいなくなった教室で、大神君に勉強を見てもらっていた。
「まず、歴史だ。今回の範囲は江戸時代だな」
教科書を開き、足を組みながら机に頬杖をつく。くそ、イケメンめ。
何をしてもさまになるなと思いながら、勉強にスイッチを切り替えた。
「江戸時代の最後の将軍の名前」
わかるか、と視線をよこしてくる大神君に私はフフンッと得意げに笑った。
『伊藤博文でしょ!!』
「ちょっと待て、まず伊藤博文は江戸の人じゃねーよ」
初っ端からズッコケはしたものの、大神君の教え方が上手い事もあって勉強は思いのほかはかどった。
もう、大神君。先生やれば言いと思う。
勉強を教えてもらい始めて一時間。一生懸命問題集をといているとき、ガラガラッと教室のドアが開いた。
自然と手が止まり、音のしたほうへ視線を向けた。
「あぁーココにいたぁ」
パツキンの髪に、濃いメイク。着崩した制服、以上に短いスカート。ザ・ギャル。
誰??
「健太、教室で女の子と勉強会??なかいんだねぇ」
「玲(レイ)、今取り込んでるんだあっち行け」
なに、お互いに呼び捨てにするほど親密な仲なの??
モヤッとした何かが心に生まれる。勉強どころじゃない。
あれ、なんでモヤモヤしてるの??大神君が他の女子と話してるから??
大神君と仲のいい子は自分だけって、高くくってたから??
ドロドロとしたもの、汚くて目を逸らしたくなる。あぁ、コレって嫉妬か。