両想い切符〜ふた駅先の片想い〜




「先輩…。

自分に嘘、つかないでください。


梨捺先輩のこと…好き…ですよね…」




「いや、別に俺はもうそんなんじゃ…」



「もういいです!!!
分かってました!最初から…。


今、梨捺先輩には吉岡先輩しかいないんじゃないんですか…。

行ってあげてください。吉岡先輩。


私はいいですから!!」




私はさっき貰って財布に大事にしまったはずの両想い切符を先輩に渡した



「ほら。70%です。
今までの先輩の想い、きっと伝わる。


行ってください。先輩…。」



本当は行って欲しくなんてない。

だけど、私のせいで先輩を後悔させるなんてもっとやだ。



私は先輩の少しの気持ちに賭けた。



だけど……



「てんぼちゃん…








……………ごめん。」




先輩は私の横からスッと立ち上がって走り始めた。




あぁ。あっけなく負けちゃった。



そりゃそうだよ。



ずっと。ずっと私は先輩の何を見てきたんだろう。






先輩の視線ははいつも梨捺先輩で、


梨捺先輩を見る時にはとっても愛しい顔してたじゃん。




そんな状況で…梨捺先輩が傷ついて来て欲しいなんて言ったら、行かないわけないじゃん。



何を期待してたの……。



バカみたい。



浴衣まで着て…髪型まで練習して。


せっかく貰った先輩からの両想い切符。


先輩の両想いのために渡しちゃうなんて。



私は本物のバカだ…。



私の頬を涙が伝うと同時に…



バーーーーン



と、切なく花火が上がった。







「うぅっ………うっ……」



人がいなくて良かった……。


こんなの誰にも見せらんないよ。



先輩、今頃梨捺先輩のもとに辿り着いた?



気持ち伝えて通じあった…?



梨捺先輩だって、きっと、吉岡先輩のこと大事に思ってるよ。


だって時々。梨捺先輩の視線が怖い時、あったよ?


だから私は。いつかこうなったらどうしようって思ってたんだもん。



よかったね…吉岡先輩。


やっぱり先輩は幸せになるべき人だ…。


考えれば考えるほど辛くて涙が止まらない。


いいじゃん。あの吉岡先輩と夏祭りにこられたんだよ!?一瞬でもカレカノみたいに…。


私はいつからそんなに欲張りになっちゃったの…?



そう思って泣いてると…


「おい。

だから言ったじゃん。あんまり深く関わんなって。
傷つくのはお前だって言ったじゃん。」







「…ち…ひろ。」



「ったく、アホ。
もっと自分のこと大事にしろよ。バカ」



そう言って智弘は私を抱きしめた



……へ??…智弘………?



「泣くだけ泣いとけ。」



「なんで……」



「なんでだろーな。



ったくさぁ。いい加減気づけよ、バカ女


こんな傷つけられて…。
俺だったらこんなことしねーんだよ」



……どーゆうこと??

智弘の言ってることについていけない。

頭も全然回らないし…。



「お前はやっぱバカだな。
鈍感バカ女。




俺はお前のこと


ずっと好きだったつってんだろーが」







智弘が……?


私のことが好き……???



「はぁ~。

もう今は何も考えねぇで、泣け。
それからの事はゆっくりでいいから。」



そう言われて、私は智弘の優しさに甘えた。



智弘…ごめんね。


私きっとたくさん智弘のこと傷つけた。



それでもいつも私のこと叱ってくれて。


好きだなんて言ってくれてありがとう。




「ちひ…ろ。

ありがと…」



「おう。


あと、お前…浴衣も髪型も似合ってんじゃん

あいつのためって思ったら腹立つけど、めっちゃ可愛い。」



…可愛い!?


いつもの智弘の口からは信じられないような言葉に私は涙も引っ込んでしまった



「お前…ほんと単純だな」


そう言って智弘は笑って私の頭を撫でる



先輩の手より少し細くて小さい綺麗な手だな



私はこんな状況でも吉岡先輩と比べてしまう自分に嫌気がさした。



先輩と見るはずだった花火は、なぜか智弘の腕の中で、切なく散る音だけを聞いて


私はただ涙を流した






。.*+:遥人side。.+




何やってんだ俺は。



梨捺から連絡が来て動揺して…。


大切なてんぼちゃんを置いてきてしまった。



走ってる途中、いつもてんぼちゃんの隣にいる、2つ下の香川 智弘に会った



「香川だよな?」



俺が話しかけるとびっくりしたような顔をした




「先輩。
今日は未緒と来たんじゃないんすか?」



「あぁ。でも訳あって一緒に花火、見られなくなった。だから、行ってあげてくれないか?

場所はまっすぐ行って右に曲がったら少し細い道に出る。そこをずっと真っ直ぐだから…」




俺がそう言うと完全に怒っているのが分かる香川。



そりゃそうだよな。


香川はきっと、てんぼちゃんのことが好きだ。それは、見ててなんとなく。男のカンってやつ。



それに、てんぼちゃんももしかすると、好きかもしれない。



近くにいるほど想いを伝えられない辛さを俺は一番理解できる。







俺はずっと、幼なじみの梨捺が好きだった



男を惹きつけるやり方を知ってる梨捺。


どこをとっても魅力的で魅惑的。


ちっちゃい頃から周りとは全然違う彼女に憧れて、そんな気持ちは簡単に恋愛感情になった。



でも、コロコロと相手を変えるコイツ。



でも、絶対に俺には寄ってこない。


それは、大事にしてくれてんだって分かってたけど、そんな優しさなんて要らなかった。



甘えたい時は俺に甘えろよ。


そんな何処の馬の骨か分かんねぇ男じゃなくってさ。



梨捺になら、なんだってやってやれる。



そう思ってたどうしょうもない俺だった。



そんな時だ。


てんぼちゃんに出会ったのは。






ただあわててるだけじゃなくて、



人見知りなのかかなり恥ずかしがってる彼女



そんなピュアな彼女は梨捺とは正反対で…



ずっと梨捺だけを見てきた俺にとって、とても新鮮で、興味深い。



それが最初の感情。



でも、それからどんどん彼女を知って、知れば知るほど惹かれた。



あれほど純粋でピュアで、優しい。



いい子って言葉がピッタリで…。


俺は、そんな彼女の素直さにどんどんハマった。



その想いに気がついたのは、大会に負けた次の日。







それまでは、よく分からない気持ちが続いてた。



てんぼちゃんには好きな人がいるって言うのに、


大会前日には思わず彼女を電車から引き下ろして、最後には抱きしめた。



俺は梨捺が好きなはずなのに…。


なんで?


そう思いながら大会を迎えた。


大会に持って行った、名前も知らない誰かからもらったお守り。



だけど俺はなんとなく、そのお守りを見て、てんぼちゃんを思い出した。



惜しくも負けてしまったけど、そのお守りを作ってくれた子に恥じない試合はできたと思う




てんぼちゃんじゃないかもしれないけれど、俺は無性にてんぼちゃんに会いたくなった。


声が聞きたくなった。


梨捺じゃなくて。てんぼちゃんに。