……え?え?
先輩…???
私のこと、抱きしめてる…!!?
私の頭を先輩が左手で引き寄せてるせいで、顔は先輩の胸にぎゅっとくっついてる
ドクンドクン…
先輩の胸の音が聞こえる。
もしかして、先輩緊張してる…??
私が自分で感じるこのドキドキしてる心臓と同じくらい早い鼓動が伝わる
やばい…私、生きてる…!!?
一度私を引き寄せた先輩はなかなか離れなくて、
それに私も離れたくなくて、ぎゅっと目をつぶった。
でも、背中に手を回す勇気なんてなくて、先輩の横腹のシャツを強く握った
そんな私に気がついたのか、先輩はもっと強く私を抱きしめた
はぁぁ……
先輩と公園で過ごしてからもう2日が経った。
あれから、先輩は駅まで送ってくれて、そのまま何も無かったみたいに私は帰ったけど。
先輩はどうして私を抱きしめたのかな…。
梨捺先輩と重ねて???
私からパワーなんて貰えないでしょ。
結局、先輩は昨日の大会。
決勝で負けてしまったみたい。
それもファイナルゲームのデュースまで突入するほどかなりの僅差だったらしい。
だから、今日は終電の一本前の電車に乗ってるわけないんだけど。
なんとなく、先輩との思い出に浸りたくて、私は先輩がいないいつもの時間の電車に1人で乗ってる。
楽しかったなぁ。先輩と一緒に帰るの。
毎日いろんな話をして、いろんな表情の先輩を見れた。
ただ、先輩を見てるだけで毎朝幸せだったのに。
先輩と少し挨拶ができるようになってからは、
先輩ともっともっと話してみたいって。
さらに、先輩と話せるようになってからは、
私のこと、少しでもかわいいって思ってくれればいいのに。
今ではもう、
梨捺先輩じゃなくて、いつか私を見てくれればいのにって。
私、どんどん欲深くなってる…。
もうこれ以上、先輩に近づいて、先輩となかよくしてたら、私は、このままの関係で満足出来なくなりそう。
『次は東条駅~東条駅~』
東条駅のホーム。
先輩がいつも手を上げて朝の挨拶をしながら乗ってくるところ。
先輩がいつも笑って手を振って「またな」って言うところ。
先輩が私の手を手を引かれたところ。
全部先輩に染まってるじゃん。
もうこれを機会にやめよう。
一緒にもう帰ることは無いだろうし、これ以上先輩を想って悩んでも結局は梨捺先輩なんだから。
そう思うのに、全然先輩が離れてくれない。
それにきっと、心のどこかで、私は先輩を忘れたくない。
なんで恋ってこんなにも苦いの…??
私は1人で電車に揺られながら、よく分からないけど、少しだけ。涙を流した。
次の日。
私は定位置に座って電車に揺られてる。
東条駅が見えてきた
あ、先輩。
電車に乗ってきた先輩はいつも通り私に笑顔で手を挙げた
梨捺先輩もつられてにこっと微笑む
可愛いなぁ~綺麗で…
私もあんなだったらいいのに。
何もかもいつも通り…なはずなのに。
吉岡先輩も梨捺先輩も元気がないように見える。
それになによりも。いつもあんなに楽しそうに話してる2人が今日はなんとなく
ぎこちなくて。沈黙が続いてた…
なんか何もかも分かんなくてモヤモヤするー。
「未緒~??」
「あ、舞衣!おはよ!」
「もぉ~さっきから何回か呼んだんだけど!」
「え!ごめん!ちょっと考え事してて…。」
私がそう言うと眉を曲げて怪訝そうな顔をする舞衣。
「あんた~。割と明るい気持ちでお守りの話しなかった~??」
「そうなんだけど…。そうなんだけど。
色々とありまして…。」
私が夜、公園であった話をしたら、舞衣はそれはもう大きな目をぱっちり開けて驚いてた
そりゃまぁ、驚くよね…私も驚いてるもん
「なんで吉岡先輩……。」
少し考えてから舞衣ははっとした表情になって
「ひょっとして…先輩、未緒のこと…」
私はその言葉を打ち切るように首を振った
「絶対ない。先輩は梨捺先輩だもん。」
私だってそう考えなかったわけじゃない。
でも、好きならきっと昨日の終電一本前の電車に乗ってくれたはず。
それに…。
梨捺先輩は絶対的だし。
期待して傷つくなんてごめんだし…。
「そっかぁ。吉岡先輩も色々と難しいね…。
でも私にはそんな軽く抱きしめるようなこと、しない人にしか見えないんだけどな。」
「うん。私もそう思ってたからわかんない。
だけどもういいかな…
悩めば悩むほど疲れちゃうし。
もう、先輩との接点の電車がなくなっちゃったから、いい機会だよね?」
「うーん…。
せっかく仲良くなれたけどなぁ。
でも、変に期待したくない気持ちもすっごく分かるしね…」
「うん……
あぁ~もうごめん!!
そうだ、舞衣は彼氏さんとどうなのー?」
「えぇー?!どうって!別に~」
舞衣は少し気にしてる様子だったけど、これ以上突っ込まない方が私のためってことも分かって、彼氏の話をしてくれた
私も早く忘れなきゃなぁ…
。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。.。:+* ゚
放課後。
なんとなくまっすぐ帰りたくなくて、なぜかもう習慣になってしまった図書館に向かって歩いた
結局まだ先輩が来るって希望、完全に捨てれてないんじゃん。
期待しても傷つくの自分なのにぃ。
あぁ~なんか今猛烈に泣ける小説読みたい!!!
そう思って私は本棚の方に歩いた
あ、あれ今、話題の小説だ!
ヒロインの気持ちにめちゃくちゃ共感できるってやつ。
あれ読みたいなぁ~
けど……割と高い所にある。
ハシゴもないし…
ん~手を伸ばしたら届きそうなのに…
後ちょっとなのに届かない~
ん~~
私が思いっきり背伸びして手を伸ばしてたら、急に私の手の甲があたたかいものに包まれた
えっ…??
スッと本がとられて
「はい」
後ろから柔らかい声が聞こえた
なんで……?
もう、振り向かなくたって誰の声か分かっちゃうよ。
なんでこんな所にいるの???
せっかく忘れようとしてたのに。
私は振り向くと、予想通りの人物が笑いながら立っていた
「てんぼちゃん、ちっせ」
そう言いながら笑う先輩をこんなにも憎く思ったことは無い。
でも同時に、こんなにも嬉しいと思ったことは無い…
「先輩!何でこんなとこにいるんですか!」
「んー?
てんぼちゃんに会えるかなぁって思ってさ」
はぁぁ。この人はホンモノの悪かもしれない。