両想い切符〜ふた駅先の片想い〜





それから、何も聞けず、なんとなく気まずくてそのまま2人で電車に揺られた



『次は東条駅~東条駅』



あぁ。もう先輩といられる時間が終わっちゃう



やだ。もう進まないで…


心でそう思っててもだんだん明確に見えてくる東条駅のホーム




電車が止まって扉が開いた



「じゃ、またな」


そう言って先輩が電車をおりてしまった。


何か言わなきゃ!!!
未緒…応援の言葉を言うんだ!




「せ、先輩!!!
明日、先輩なら絶対…絶対大丈夫!!」



咄嗟に出てきたのはさっきと同じ言葉


もー!もっと気の利いたこと言えないの…



私が後悔してると、先輩は身体ごと私の方を向いた




そして、扉が閉まる直前…



先輩が私の手を引いた。








え……


一瞬何が起こったのか分からなくて。



気がつくと私は東条駅のホームに立ってた



___ピーッ


耳の奥で笛の音が聞こえて、私の後ろで電車が発車した




「…ごめんっ!!
俺、つい。」



「ぇ???」



「いや、その。なんてゆうか…

気がついたら下ろしてたってか…あの。」



そんな風にしばらく焦ってた先輩は意を決したように、こう言った。



「もう少し、一緒にいない??」



……え?


私が一緒に居ていいの!!?



「いや、ごめん!


この後予定とかなかった!?
親とか心配しない??

俺、ほんと。気がついたら何やってんだろ」



私の前で先輩は焦ってるけど…なにこれ、こんなの嬉しすぎるよ…。



バツ悪そうに先輩は私を見てる。


私の気持ちも伝えなきゃ……


「だ、大丈夫です!!!

私も…先輩と一緒に居たいです。」






かぁーーっ////


何言っちゃってんだ私は!!!


私も一緒に居たいなんて……


別に先輩は“一緒に居たい”なんてフレーズ言ってなかったじゃん!!!


完全に言葉のチョイス間違った~



絶対私の顔真っ赤だよ…。



そう思ってるとふと私の左手が暖かくなった



せ、先輩が私の左手握ってるっ……


え、なになに!!?これ、夢!!?



私が驚いて顔を上げると


「そっか、よかった
じゃあ行こう?」


先輩もどこか照れたようにそういった



……え。


ほんとに…ほんとに私、先輩と一緒に居られるんだ。



次の電車まで1時間弱。


ざっと、最低40分は一緒だ……。



こんなの嬉しすぎる。



もう、先輩が梨捺先輩のこと好きでもいい。


先輩と今一緒に居られる時間を大切にしよう。




そう心に誓って私は先輩に連れられるままに歩いた






連れてこられたのは東条駅近くの公園



公園なんて何年ぶりかなぁ~



そう思いながら2人でベンチに座った



「まじでごめんな?

意味分かんねーことして。」



「い、いえいえ!!」


「俺さ…。本当はめちゃくちゃ不安なんだ。


実はちょっと右手痛めててさ。明日の大会、最後まで持つかめっちゃ不安。


でもなんか、てんぼちゃんと居たら、心が休まるってか。ほんと、癒されるってゆうか。


って、別に変な意味じゃないよ?!!
でもなんつーか、あったかい。」



そう言って先輩は私にニコっと笑った


それはいつものキラキラした笑いじゃなくて、少し弱そうな、でも、明るくて優しい笑顔。



あんな言葉にこんな笑顔。


私って今、すごく幸せなのかも。


だけど私の頭によぎるのは梨捺先輩の存在。



私でよかったのかな?


ちょっと半信半疑だけど、今は余計なこと考えないでおこう。








心地いい沈黙の時間が流れて、


先輩は空を見上げて、バッと立ち上がった



うぅ〜~と伸びたあと



「はぁ~今日は月と星がすっげえ綺麗だな。


明日はちょー晴れて暑そー」



なんて先輩が嫌そうな顔をするから、その顔が可愛くて私はつい笑ってしまった



私もスッと立つと先輩は


「なんで笑ってんだよ!!」


なんて言うからもっとおかしくてもっと笑った


「はぁ??!」なんて言いながら先輩も笑うから一緒に笑いあった


しばらく笑いあって、私は自分の心で思ってたことを言った


「先輩。不安かも知れないけど絶対大丈夫。


先輩が頑張ってきたこと、神様もきっと見てます。

だからきっと、大丈夫」



すると、先輩は急に真剣な顔になった



「てんぼちゃん…



パワーもらってい??」



そう言って私を引き寄せた






……え?え?



先輩…???


私のこと、抱きしめてる…!!?




私の頭を先輩が左手で引き寄せてるせいで、顔は先輩の胸にぎゅっとくっついてる




ドクンドクン…


先輩の胸の音が聞こえる。



もしかして、先輩緊張してる…??



私が自分で感じるこのドキドキしてる心臓と同じくらい早い鼓動が伝わる




やばい…私、生きてる…!!?



一度私を引き寄せた先輩はなかなか離れなくて、


それに私も離れたくなくて、ぎゅっと目をつぶった。


でも、背中に手を回す勇気なんてなくて、先輩の横腹のシャツを強く握った




そんな私に気がついたのか、先輩はもっと強く私を抱きしめた






はぁぁ……



先輩と公園で過ごしてからもう2日が経った。



あれから、先輩は駅まで送ってくれて、そのまま何も無かったみたいに私は帰ったけど。




先輩はどうして私を抱きしめたのかな…。



梨捺先輩と重ねて???



私からパワーなんて貰えないでしょ。



結局、先輩は昨日の大会。
決勝で負けてしまったみたい。



それもファイナルゲームのデュースまで突入するほどかなりの僅差だったらしい。



だから、今日は終電の一本前の電車に乗ってるわけないんだけど。



なんとなく、先輩との思い出に浸りたくて、私は先輩がいないいつもの時間の電車に1人で乗ってる。









楽しかったなぁ。先輩と一緒に帰るの。



毎日いろんな話をして、いろんな表情の先輩を見れた。



ただ、先輩を見てるだけで毎朝幸せだったのに。



先輩と少し挨拶ができるようになってからは、


先輩ともっともっと話してみたいって。



さらに、先輩と話せるようになってからは、



私のこと、少しでもかわいいって思ってくれればいいのに。




今ではもう、



梨捺先輩じゃなくて、いつか私を見てくれればいのにって。




私、どんどん欲深くなってる…。



もうこれ以上、先輩に近づいて、先輩となかよくしてたら、私は、このままの関係で満足出来なくなりそう。








『次は東条駅~東条駅~』



東条駅のホーム。



先輩がいつも手を上げて朝の挨拶をしながら乗ってくるところ。




先輩がいつも笑って手を振って「またな」って言うところ。




先輩が私の手を手を引かれたところ。




全部先輩に染まってるじゃん。



もうこれを機会にやめよう。



一緒にもう帰ることは無いだろうし、これ以上先輩を想って悩んでも結局は梨捺先輩なんだから。




そう思うのに、全然先輩が離れてくれない。




それにきっと、心のどこかで、私は先輩を忘れたくない。




なんで恋ってこんなにも苦いの…??




私は1人で電車に揺られながら、よく分からないけど、少しだけ。涙を流した。