両想い切符〜ふた駅先の片想い〜





少し沈黙が続いたあと電車が来た



もう2週間もの日課となったから、慣れたようにいつもの席に座る



はぁ~今日で最後か……。



なんて思ってしまう。



私が切ない気持ちになってると




「まー誰だってやな事あるよな」




そう言って先輩はあの、入学式で見た切ない表情をしていた



「え…??」


「あぁ、ごめん!
てんぼちゃんがやな事思い出したら俺もやな事思い出したじゃん!」



そう言って眉を少し下げて困ったように笑った




間違えない……。梨捺先輩のことだ。




先輩を何とかしたくて…力になりたくて…
私は頭で考えるより先に口走ってた




「私でよければ…聞きます。」




………って何言っちゃってんの!!!





すると先輩はびっくりしたように私の方を向いた



「なんか、不思議だな


人に話そうとか、1回も思ったことなかったのに。


なんか、てんぼちゃんには簡単に言えそう
なんなんだろ。これ。」




「…………


私、なんでも聞きます」



ウソだけど…。本当は何でも聞く覚悟なんてまだない。


先輩の口から梨捺先輩が好きだなんて言われたらきっと泣いちゃう。



でも……




なんでかな。


今はどうしても、この目の前の消えちゃいそうな先輩を……救いたい。




先輩はまた少し困ったように笑った



「その素直さがそうさせんのかな。

はぁあ、てんぼちゃん、俺に催眠術でも使った??俺、こんなの初めて。」



『こんなの初めて。』


もっと違う場面で聞けたらどんなに幸せだったろう……



先輩、それ以上言わないで…



心はそう叫ぶのに



「先輩…なんでも言ってください

私でいいなら、なんでも。」



口ではそう言っちゃうんだ。








「俺さ……毎日割とキツイ。


大事な人に、それ以上自分傷つけてほしくねぇのにさ、もっと自分のこと大事にしてほしいのにさ。


もっと本気で愛情、感じてほしいのにさ。


全然、どうしたらいいか分かんねー」




…………やっぱり、梨捺先輩のことだ。



そっか。先輩はそんなふうに思ってたんだね




『自分を大切にしてほしい』
『愛情を感じてほしい』




先輩、優しすぎるよ。



「その人のこと、すっごく大切なんですね」



こんな言葉で片付けていいほど、先輩の想いはきっと軽いものじゃないけど、

今の私にはこんな言葉しか思いつかなかった



先輩は少し切なそうに笑ってから


「大切か……

そーだな。自分よりも大切かもな」



なんて呟いた







『自分よりも大切』


先輩、それって『好き』って聞くよりも辛いよ。



私はそんな先輩の言葉にもう、何も言えなかった



そっか。幼なじみだもんね、

きっと私なんかが想像できるよりも何年も前から、先輩は梨捺先輩のこと思ってきたんだね



だから、こんなにも愛が大きくて、こんなにも切ないんだ。




「ってごめん!
なんか、俺重すぎて気持ち悪くない??
いやぁ、ほんと、てんぼちゃん催眠術師になれるよ」



沈黙を破った先輩はいつも通りの笑顔に戻っていた



こんな風に無理してきたのかな。いつも。



そう思うと、胸がはちきれそうだった




「なんかさ、俺ばっかの話になったじゃん?

てんぼちゃんはいないの?大事な人!


つったらまた重いから~…
好きな人!とかいねーの??」




先輩はそう言って私を覗いた



「私は……」



『いないです。』そう答えるつもりだったのに…



「います…

切なさとかやり切れなさとか…全部から救いたい人。」






って私…何言ってるの。



先輩の目の前で先輩のこと…。




「てんぼちゃん……


羨ましいな、そいつ。すっげー思われてんじゃん」



先輩が少し悲しそうに私を見る



先輩……私だってそうかも。

私なんかが先輩と一緒にしちゃダメかも知れないけど、


私だって『自分より先輩が大切』


先輩が好きだって気持ちよりも先に



先輩に幸せになってもらいたい。



人を好きになるってこんな切ないの??



だけど、これが愛情ってやつなのかな…



恋なんて初めてだから私、全然わかんない。



先輩のちょっとした事で嬉しくなったり、胸が熱くなったり、


でもちょっとした事で悲しくなったり、ギューって胸が締め付けられる。



私は生まれて初めて、こんな気持ちがあることを知った








「あ〜。東条駅まであとひと駅だわ。


てんぼちゃん、今日でこの電車乗んの終わり?」




「………へ??」



「だって、もう明日でテスト終わるじゃん」




あ、そうだった。


先輩があんな話するからすっかり忘れてた。



私が「そうですね。最後です。」



そう答えようとすると…



「やだなー」




なんて、先輩がこっちを向いて言った




「ぇ??」



「せっかく、こんな仲良くなれたのに、もうゆっくり話せなくなんじゃん。

俺、てんぼちゃんと話す時間、好きだったのに」




あぁ、どうして先輩はそんなにも意地悪なの…



やっぱり届かない存在だって思ってたのに、また私の心をそうやって離さない。



無意識でやってるんだろうから憎めないし。



「……最後じゃないです。」



「え??」


「私、まだ勉強します。」



「え、まじで?!」



「はい。補習期間にもうすぐ入るし、

な、なんか、今回のテストで勉強にハマったかもしれないです!!!」




なんて、すぐ嘘だってバレちゃいそうな、いい加減な理由をつけた




そんな嘘にも先輩は大きく笑って



「勉強にハマったって!!なんだそれ!!


はぁぁ、腹いてーー


でも、よかった」



なんて、爽やかな顔で私に笑顔を向ける




はぁ~。この人、なんにも分かってない!!!



そんなこんなしてると、東条駅に着いた



「じゃ、また“明日”な??」



そう言いながら笑う先輩を初めて悪魔だと思った



もー。先輩のバカ。



でも大好き。








期末テストが終わって、夏休みに入った



でも、うちの学校は夏休みの補習がある。



全員強制で……


そんなの授業と一緒じゃんか!!って思うけど仕方ないか…



補習は8月に入るまで続くからまだあと1.5週間くらいある。




長いけど実際、先輩との帰り道のお陰で言うほど嫌じゃない。




今日はどんな話しよっかなぁ〜



私がルンルンで帰る支度をしてると、




「おい

お前、まだ吉岡先輩と帰ってんの?」




「智弘…」



私がこくりと頷くと智弘は明らかに期限が悪そうな顔をした




「お前。あんまり深く関われば関わるほど、深く傷つくって分かってる??」



智弘は心配そうに私に聞いた



分からないわけじゃない。



先輩と仲良くなればなるほど、その後が辛い




そのくらい、私にだって分かっちゃいるけど。



でも、止められない。



今、先輩と居られる時間を楽しみたい



先輩と一緒に居たい



この気持ちが全然止められない…。




私が答えられずに下を向いてると



「しっかりしろよ…

もう、舞衣だってお前ばっかにかまってやれる状況じゃなくなったし。

それに、舞衣に慰められたら余計辛くなるだろうし。

お前が傷つくとこ、俺は見たくねーから。


俺は言ったからな。」




そう言い残して智弘は帰っていった



そう。舞衣は他校の先輩と付き合い始めたばっかりで、今はラブラブ期で今日も彼氏の家に行くんだって。







それなのに私なんて…



絶賛片想い中だし…しかもその相手応援しちゃってるなんて。



論外…



でも何となく、最近先輩、すごく元気なんだよね



なんでだろう。ほんと、2、3日くらいの話なんだけど…




梨捺先輩は相変わらず新しい彼氏さんが出来たみたいで、それも今回はちょっと年上の社会人らしい



大人にまで相手にされるなんて、さすが梨捺先輩




それになんか、今までと比べて梨捺先輩はかなり本気なようで、



今日の朝も


「大樹さんが梨捺とずっと一緒にいたいって言ってくれて、今日の朝も離してくれなかった」



なんて、少し頬を赤らめながら言ってたし…



梨捺先輩、本気で恋したらあんなになるんだなって



今までは綺麗で男の人を手玉にとってる感じだったけど、今回は完全に恋する乙女だ




そんな梨捺先輩はすっごい可愛い


女の私から見てもドキドキするのに、吉岡先輩が見てドキドキしないわけがないし、傷ついてもおかしくない。



なのに、なぜか吉岡先輩は元気なんだ







大会がもうすぐ目の前だから??


だからわざとテンション上げてるのかな…



仲良くはなれたものの、まだ先輩のこと完全に分かったわけじゃないから
先輩の気持ちが分かんない……




まぁ、しりたいわけでもないんだけどね。


傷つくの分かってるし……。




んー、でも知りたい。





変な感じだなぁ。


昨日舞衣に相談してたら成功者の舞衣は、


「どっちにしろ、先輩の気持ち動かしたいなら未緒が動かなきゃね!!!」



と言われてしまった


まぁ確かに。ウダウダ悩んでても前に進むわけじゃないし…私になにか出来ることないかな。



そう考えて思いついたのが…テニスの応援