「吉岡先輩って変な人ですね」
「おー、それよく言われる
まぁーけど、てんぼちゃんには言われたくないけどね?」
「な!なんでですか!!」
「自覚ないところもさらにやばいよね」
なんて、また先輩は大きく笑った
よく笑う人だなぁ~
「もー!」
そう言って私が頬を膨らますと、
先輩は人差し指で私の頬をつんとつついた
ぷーっ
と空気が抜けたせいで、恥ずかしすぎて、私の顔は真っ赤になった
それを見て先輩は「真っ赤じゃん」なんて言ってまた笑う
正直ちょっとムカつくけど、この笑顔が見られるならこれもこれで悪くないか?
なんて思っちゃう。
恋ってなんでも許せちゃうところが厄介…
先輩はずーっと笑ってくれてるけど、
私もっと先輩のこと、知りたいんだった
せっかくの先輩とお話できるチャンス…
がんばれ、私。
なんでも先輩のこと聞くんだっ!!!
「せ、先輩って……
部活、好きですかっ??」
………って!好きに決まってるじゃん!
なにこの質問〜!!完全にまちがっちゃった
「ははははは
やっと口開いたと思ったらそんなこと聞きたい???」
そう言って先輩はまた大笑いする。
もぉ〜!!!私のバカバカバカ!!!!
なんて自分を責めてると、
「まぁ、好きだよ?今は部活のために学校行ってるみたいなもんだし」
真剣な声で先輩が答えてくれた
「部活のために学校…か」
「うん。まぁ次の大会は何としてでも勝ちたいしね?
3年間の集大成だからさ!!」
そう言って先輩はキラキラした笑顔で私にぐっとサインをくれた
私も頷いて、少し戸惑いながらもぐっとサインを返すと、
「いぇい」
なんて言って、コツンと手と手を当ててきた
一瞬だったのに…ほんとちょっとだったのに先輩と当たった部分が熱を帯びる
先輩…ずるいよ。
私はこんなことでもドキドキしてるのに。
先輩はそんな私の気持ちには、なんにも気付かずただただキラキラの笑顔で笑い続けた
『お次は東条駅~東条駅~』
「うわ、はや~。
もう俺、次だわ。てんぼちゃんと話してるとすぐ時間経つな」
「そ、そうですか!?」
「うん。また明日もこの時間??」
「は、はい。たぶん……」
「そっか!
じゃあこれ楽しみに部活頑張るわ!」
そう言って先輩は電車をおりた
扉がしまっても一生懸命手を大きく振ってくれる先輩
好きです……。吉岡先輩
届くわけないけど、心でそう呟いて、私は少し遠慮がちに手を振り返した
期末テストが始まって残すところあと1日になった
先輩と帰る電車は続いていて、色んな話を聞けた
部活のことはもちろん、好きな音楽、好きな食べ物、誕生日……
この2週間程で先輩の事をたくさん知れた
先輩って私が思ってたより気さくでお茶目な人
先輩の好きな音楽、聞けた次の日にレンタルショップへ行ってすぐに聞いた
へぇ~先輩ってこんな音楽聴いてるんだ♡
ちょっとでも先輩に近づけた気分で嬉しい
だけど、今日でテスト勉強が終わっちゃう…
先輩と帰るの、これで最後になっちゃうのかな…
やだなぁなんて思いながら私は駅のホームへ向かった
あ、今日は先輩が先にいる…
ホームのベンチで単語帳を開いてる先輩
部活して疲れてるのに……
私がずっと先輩を見ていると先輩が私に気づいた
「てんぼちゃん!」
そう言ってまたあの笑顔で私に手を振る
……だから。それ反則なんですって…
嬉しすぎて。かっこよすぎて私の顔、緩んじゃうじゃん!
私は口角が上がるのを必死に隠すために笑顔で先輩に手を振り返した
「いつから来てた??」
「ちょっと前です!」
「なら声かけてよ!
ちょー恥ずいじゃん!俺必死だったろ」
そう言いながら先輩はすごく照れたように笑った
「はい、もう単語帳に穴開くんじゃないかと思いました!!」
私が冗談でそう返すと
「ほらぁ~~まじ恥ずいしー!!」
なんて先輩が笑いながらガックシと頭を下げた
「でも…すごいなって思いました」
「え??」
「だって、テスト期間中も部活めいっっぱいやって、その後にちゃんと勉強してる。
それって、普通の人には出来ないです!!」
そう言うと先輩がまた照れたように顔を上げた
「そんなことねーって!」
そう言いながらもちょっと耳を赤くなってる
かわいい~♡
先輩って照れると耳が赤くなるんだなぁ…
そう言えば梨捺先輩のときも……
あぁ~やなこと思い出しちゃった
私のこの考えて、しっ!しっ!どっか行け!!
なんて私が勝手に頭の中と格闘していると
「ん?なんかやな事でも思い出した?」
なんて先輩が直球なところを聞いてくるからなんて答えればいいのか分かんなくて
またごもごも言っちゃった
少し沈黙が続いたあと電車が来た
もう2週間もの日課となったから、慣れたようにいつもの席に座る
はぁ~今日で最後か……。
なんて思ってしまう。
私が切ない気持ちになってると
「まー誰だってやな事あるよな」
そう言って先輩はあの、入学式で見た切ない表情をしていた
「え…??」
「あぁ、ごめん!
てんぼちゃんがやな事思い出したら俺もやな事思い出したじゃん!」
そう言って眉を少し下げて困ったように笑った
間違えない……。梨捺先輩のことだ。
先輩を何とかしたくて…力になりたくて…
私は頭で考えるより先に口走ってた
「私でよければ…聞きます。」
………って何言っちゃってんの!!!
すると先輩はびっくりしたように私の方を向いた
「なんか、不思議だな
人に話そうとか、1回も思ったことなかったのに。
なんか、てんぼちゃんには簡単に言えそう
なんなんだろ。これ。」
「…………
私、なんでも聞きます」
ウソだけど…。本当は何でも聞く覚悟なんてまだない。
先輩の口から梨捺先輩が好きだなんて言われたらきっと泣いちゃう。
でも……
なんでかな。
今はどうしても、この目の前の消えちゃいそうな先輩を……救いたい。
先輩はまた少し困ったように笑った
「その素直さがそうさせんのかな。
はぁあ、てんぼちゃん、俺に催眠術でも使った??俺、こんなの初めて。」
『こんなの初めて。』
もっと違う場面で聞けたらどんなに幸せだったろう……
先輩、それ以上言わないで…
心はそう叫ぶのに
「先輩…なんでも言ってください
私でいいなら、なんでも。」
口ではそう言っちゃうんだ。
「俺さ……毎日割とキツイ。
大事な人に、それ以上自分傷つけてほしくねぇのにさ、もっと自分のこと大事にしてほしいのにさ。
もっと本気で愛情、感じてほしいのにさ。
全然、どうしたらいいか分かんねー」
…………やっぱり、梨捺先輩のことだ。
そっか。先輩はそんなふうに思ってたんだね
『自分を大切にしてほしい』
『愛情を感じてほしい』
先輩、優しすぎるよ。
「その人のこと、すっごく大切なんですね」
こんな言葉で片付けていいほど、先輩の想いはきっと軽いものじゃないけど、
今の私にはこんな言葉しか思いつかなかった
先輩は少し切なそうに笑ってから
「大切か……
そーだな。自分よりも大切かもな」
なんて呟いた