両想い切符〜ふた駅先の片想い〜




梨捺は色んなものと戦ってたんだよな。



人に気を遣うより遣われる側だと思うやつが多いけど、梨捺は気を遣われながらも自分だって気を遣ってる。



本当は心優しくて、誰よりも人を傷つけることが嫌いだ。



自分の欲しいものには妥協しないけど、いつも人のものなら我慢してた。



そんな梨捺が人のものでも欲しかったのが今回の彼氏。



そう思うと、梨捺をこんなにも傷つけた彼氏を俺は許せなかった。




少しして梨捺がこれの首に腕を回して頭をあげた



「ねぇ……遥人。


…キスして?しようよ。」



そう言って目を潤した梨捺の右手は俺の頬を撫でる



長年好きだった梨捺がそう言っている。


こんな日をいつも待ち望んでいた。



「遥人…


私のこと、好きでいてくれてありがと。

私、気づいてたよ…遥人の気持ち。


でも、遥人のことだけは傷つけられなくて…



だけどもう今ならわかる。
私のこと、いちばん理解してくれて、想ってくれるのは遥人だよ…


ねぇ。幼なじみって関係、一緒にこえよ??」










俺の左頬を撫でていた梨捺の手が耳を伝って首筋に戻った



そして、梨捺はスッと目を閉じた


ずっと欲しかった。梨捺が…。



そんな梨捺がこうして俺の腕の中にいる。


俺の元に来てくれるって…。俺のことを誘ってる。



俺は自分の中の欲望に負けて目を閉じた



梨捺との距離、あと数ミリ…



『先輩!!!』



俺の頭に浮かんだのは、てんぼちゃんの笑顔だった



「梨捺……ごめん。」



俺がそう言うと梨捺は目を開けてさらに目を潤ませた


「遥人まで私のこと…」


「違うよ梨捺。お前は今、寂しいだけだ。


その寂しさを乗り越えて強くなれ。
それからまた本気で一緒にいたいやつを見つけてくれ。



俺はもう、大切な子を見つけたから。

梨捺にも絶対に現れる。梨捺のこと一番に大切に思ってくれるやつが。



だから。梨捺…。強くなれ。」







俺がそう言うと梨捺の目から溢れんばかりに涙が流れた



「俺はいつでも梨捺の味方の幼なじみだろ?」



「遥人……


本当にありがとう…」




そう言って梨捺は泣き続けた



俺の頭の中にはもう、てんぼちゃんがいる。



梨捺のそばに静かにいながらも、俺は香川とてんぼちゃんの行く末を考えずにはいられなかった




香川はもう告白しただろうし、てんぼちゃんともう付き合ったかもしれない。



俺はこれからどうしよう。



花火が終わってしまった夜空が切なげに梨捺と俺をホテルの一室の窓から覗いていた。






。.。:未緒side+:。.。:



切なく過ぎた夏休みが終わった…。


夏祭りの次の日先輩から




『昨日は本当にごめんね
ちゃんと話したい。いつ時間空いてる?
いつでも合わすから、連絡ください』



と連絡が来てた



あれからもう一週間。


私は何かと理由をつけて先輩の誘いを断っている



梨捺先輩との話を聞くのが怖いし、智弘の気持ちを知って混乱してる自分もいる。



智弘は一度思いをぶちまけてしまえばタガが外れたように私に好きだと言ってくれし、遊びにもガンガン誘ってくれる。



智弘と付き合えばきっと幸せになれる。


だけど私の心はそれを許さない。



吉岡先輩が、頭からどうしても離れない。






もはや自分の手に負えなくなってしまった私は舞衣に相談することにした




「未緒?行こっか」


「うん」



舞衣と私は久しぶりに放課後デートでカフェに行った



夏祭りの話を舞衣にイチから全部話した



「そっかぁ。吉岡先輩…梨捺先輩のとこ行っちゃったか。

ちぃもやっと想い伝えたのね」


「舞衣は知ってたの??」


「知ってるも何も、ちぃの気持ちなんてバレバレよ!
未緒は鈍感だもんね~」



「えっ!そんなことないよ!」



「そんなこと大あり!!
ちぃは割とずっと未緒のこと好きなのに、なんかあったら未緒が未緒がって、うるさかったんだから!」






全然知らなかった~…。



「そういえば、もうちょっとで運動会でしょ?

ちぃ、下克上リレー、燃えてたわよー?

吉岡先輩が2走だって知った瞬間にちぃも2走にしたんだから!!」



そう。うちの学校の運動会には『下克上リレー』という名物があるみたい。


各学年の選抜された4人が走る、簡単に言えば、選抜学年対抗リレー。



高校生にもなると、上の学年といい勝負をして毎回盛り上がるらしい



運動神経抜群の吉岡先輩はもちろん、エースが集まる2走。

陸上部や野球部よりも早いってすごすぎない??!



それに対抗して智弘は自ら2走を希望したようだ。


『吉岡先輩になんか負けてらんねぇ。

未緒、お前ちゃんと見とけよ』


なんて言ってた。







そんな、先輩と対抗しても…とは思うけど、なんか男の勝負なんて意味わかんないこと言ってた。



「面白くなってきたわね~」


「もぉー。舞衣ぃ。
笑い事じゃないからー!!」



そう言ってふたりで笑いあった



「けどまぁ、未緒の気持ち、大事にするべきだと私は思うわよ?

吉岡先輩が好きなら吉岡先輩を好きでいるべきだと思うし?

ちぃだって、そのくらい理解してるから、今までの仲が崩れることなんてないだろうし。


吉岡先輩の気持ちもはっきり聞くの怖いのは分かるけど、ちゃんと聞くべきじゃない??


まぁ、未緒はどっちにしろ幸せになれるわよ

大丈夫」



「舞衣ぃぃ~~」




舞衣の優しさに涙が出そうになりながら私は吉岡先輩からちゃんと話を聞こうって決心をつけた











そして、ついに運動会の日が来た



綱引き、障害物競走…着々とプログラムか終わって、


今は1年生男子の借り物競争。



『〇〇先生』
『プログラム』
『赤コーン』


とか、定番のものもあれば、うちの学校は、


『おもしろい人』
『可愛い人』


などちょっと変わった借り物もある…


可愛い人でさっき、ド緊張の一年生が梨捺先輩に声をかけてた



はぁ~。吉岡先輩…。梨捺先輩と付き合ったのかなぁ。



付き合ってるよね…。


話ってそれだよねきっと…






私がぼーっとしてると、智弘が走ってこちらに来ていた



「未緒!お前借りるぞ?」



そう言って智弘は私の手を引いた


えっ??!なになになに!!?


「さて~大人気のイケメン香川 智弘くんのお題はなんでしようか~」



なんてアナウンスがながれてる



「ちょっと!智弘!!!」



私がそう言っても智弘は私の方を向いてにやっと笑うだけ。



私が必死に智弘に引っ張られながら付いていくと、一番乗りでゴールできた



智弘の首にかかったプラカードを見ると


『大切な人』


そう書かれていた