「気持ち悪いんだよっ!」

 ばしゃっと冷たい水を掛けられる。日常の一部と化してしまったこのいじめ。

「ちっ,明日は来るなよな」

 いつもの言葉を残していじめっ子達は去っていった。私は立ち上がり滴り落ちる水なんて気にせずに階段を登った。屋上のフェンスに手を掛ける。

「ここから飛び降りたら少しは楽になるかな」

 いつも通りの日常の中1人ぽつんと取り残された私。その日常を崩したらどうなるんだろう。誰か悲しんでくれるだろうか、私を思って涙を流してくれるだろうか、そう考える。がしゃっと音をさせながらフェンスを登る。乗り越えてわずかなコンクリートの淵に座る。強い風が下から巻き上げる。不思議と怖さは無かった。

 「痛いのかな。痛いのは嫌だな」

 上から見下ろす。いじめっ子達は帰るところだった。きっと今飛び降りれば巻き込めるだろう。皆を地獄に落とせるだろう。だけど死ぬ時も一緒だと思うと嫌だった。死んでもらうより生きて苦しんでもらいたい、そう思った。いじめっ子達が校門から出たのを見送り飛び降りようと立ち上がった。その時だった。

「死ぬなんて考えちゃ駄目だっ!」

 驚いて落ちないように振り返る。と、1人の男の子が立っていた。同い年位だろうか。長めの黒い艶やかな髪にお揃いの色をした瞳。真っ直ぐに私を見つめて、通った声で引き止める彼はとても必死だった。必死になって自分を助けてくれる人がいる,思い込みかもしれないけれど何故かとても安心し,コンクリートの床にに戻った。

 「良かったぁ…」

 ふわりと安心したように微笑む彼はまるで天使みたいで、しなやかな黒髪が魅力的だ。思わず見惚れていると彼が不思議そうに言った。

 「あれ…そういえば俺が見えるの?」
 「は?」

 目の前に居る男の子の発言に首を傾げる。そんな私を見てか彼は少し躊躇いつつ口を開いた。

「俺…さ,死んだんだ」と。