ふと、優しくて甘い香りに気が付く。

可愛らしいテーブルクロスが敷いてある木の机。
その上に、ちょこんとフレンチトーストが一皿置かれている。

 漂うその香りは鼻をくすぐり、笑顔を作らせた。
ジェーンは、フレンチトーストをナイフで一口分に切り、フォークで刺して口の中へ運ぶ。

上品で、あたたかな味が一瞬で口全体を埋め尽くした。

もぐもぐと食べながら、ジェーンは視線を窓の方へと移す。


 昨晩から、ずっと雨が降り続いていた。

カーテンの隙間からは灰色の町が垣間見える。

狭い視野の範囲の所為からか、どこか小さく映り、窓越しに見る世界はこんなにもちっぽけなものだっけ、とジェーンは首を傾げた。

窓に当たる雨粒が、視界を悪くしてゆく。ジェーンは不安になり、眉を下げた。

結露した部分を指でなぞり、線を描いた。
小さなピンク色の爪に雫がつく。そこに、不安げなジェーンの顔が映る。

・・・雨だって、いい。外の世界が雨でも、暗闇に紛れても、この落ち着ける場所に守られて居るんだ。

目線を落とし、食べかけのフレンチトーストを見る。ナイフとフォークをそれぞれ握る手に、力が入る。

_ここが、大好き。ずっとここに居よう。_


自然と笑みがこぼれる。幸せの空気に包まれて。
ジェーンは降り続く雨を横目に微笑んだ。












だけど、何故。
涙が次から次へと瞳から溢れてくるのは。
ぼろぼろと涙をこぼし、テーブルクロスに大小様々な染みを作っていく。


何故。
忘れてはいけない“ダレカ”、“ナニカ”があった気がするのは。



ああ、このフレンチトーストは、




懐かしい味がする。