「だけど、実のお母さんに忘れられちゃうなんて辛いね」

「そうやな」

「なのに、絢子さんとっても明るくて……すごいな」

「あれは明るいフリをしているだけや」


そうか、そうだろうな。

自分のお母さんが痴呆症になってしまって悲しくない人なんていないし、実の親でも介護をするとなると大変だろう。

介護疲れなんていう言葉があるくらい、どうしようもなく腹が立って殺めてしまうという悲しいニュースも少なくない。

そんな中で、笑顔を絶やさず明るくいるというのは、どれほどすごいことだろう。

随分と薄暗くなった空を見上げると、2羽の鳥が連なって飛んでいくのが見えた。


「どんなに忘れてしまっても、親子は親子。絆が無くなるわけやない」

「うん」

「あの親子はお互いを思いやる心がある。だから大丈夫や」


穏やかな口調で、晴登くんはそう話す。

人のオーラが見えるというのは、時として大変だろうけど、素敵なことだと思う。

だって、さっきの彼の言葉で絢子さんは救われたはずだから。


「晴登くんのお母さんはどんな人?」

「さぁ、どんな人やったかな? 物心ついた頃にはおらんかったからよう知らんわ」


え? っと晴登くんの方を見ると、彼は僅かに口の端を緩めて微笑んだ。


「亡くなってしまってん、俺を産んですぐに」

「あ、あの……ごめんね」

「謝ることないやろ、別に聞かれて困ることやないで」