「そんなに謝らんでいいわよぉ」


土下座をする勢いで謝る私たちを見て、絢子さんは朗らかに笑う。

人様の家の押入れを勝手に開ける(麻子さんには言ったけど)という失礼極まりない行為をしたというのに、彼女は怒るどころか「何があったの?」と好奇心に満ちた目をこちらに向けた。


「そう、そんな古い新聞を大事に取ってあったの」

「50年前から、毎年ずっと神起祭の日のものを切り抜いていたみたいです」

「母は神起祭が大好きだったからねぇ。そんで、伝説についてもあった?」

「メモ書きですけど、ありました」


4つに折られた白い紙を絢子さんに見せると、彼女は老眼鏡を掛けてそれをまじまじと眺めた。その目の端には薄っすら涙が浮かんでいる。


「懐かしい、母の字だぁ。昔はね、書道の師範をしていたんよ。とても厳しくて、でも優しい人だった」

「今もお優しい人だと思います」

「そぉね、ありがとう」


絢子さんは襖の方へ視線をチラリとやってから、目じりの涙を拭った。


「瑞子を亡くした後の母の落ち込みはぁ酷いもんで。子供ながらにとっても心配したのを未だに覚えているわぁ。でもね、ある時、急に元気になって。母は瑞子に会ったんやね」

「だと思います」