そう。家庭環境が崩壊している。
僕のところも、月宮先輩のところも、部長の早乙女先輩のところも、哀川のところも。
「じゃあ、弓景先輩も?」
「うん。まぁね。」
「理駆先輩!それは本当なんですか!?」
哀川にも言ってないからね。
「哀川さん、これは本当のことですよ。」
「本当のこと。」
「なんで、そんな、大事なこと……。」
「ま、どんな環境からは本人に聞いてね。僕達のところはいつでも教えるけど、気が向いたら聞いて?」
きっと、哀川は聞かないよ。
僕達が傷つくと思ってるから。

__________この子は優しすぎるから。

「哀川君、黙っててすまなかったな。」
「そ、そんな大丈夫ですよ。先輩達にも言い難いことありますもんね……。」
そう言い無理に笑ったような顔を見せる哀川。
すると朝の活動の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響く。
それと同時に失礼しました、と緋山が出ていき哀川も後に続く。

「あ、早乙女先輩とか、月宮先輩のこともいつか僕達に教えてね。」
長い沈黙。

「いつか、な。」

だれも自分のことを話さない。
話したのは哀川だけ。
優しいあの子は僕達の秘密を知ったらどう思うのかな。
でも、哀川の秘密は視線、接触の恐怖、実兄が死んだことだけじゃないような気がする。
まぁ、これは予想だけど。
取り敢えず僕達のことを知られないように最善を尽くさなくちゃね。
「莎駆、頑張ろうね。」
「うん。」