「あ、あの!話がよくわからないんですけど……。」
「そっかそっか。澪月は何も言われてない?螢から。噂好きな少年のこと。」
「あっ!」
噂話好きな少年。
眞白先輩のことを相談した時に出てきた人だ。
でも、なんで知って……。
「それ、俺だよ。」
「えぇ!?」
「ねぇ、どこから探してるなんて情報が入ったの。」
すると、澄君はんー、と悩む素振りを見せてからすぐに笑顔で答える。
「風の噂で。」
「嘘。」
う、噂でそんな情報まで手に入るなんて思わないよね…?
「澄君。眞白先輩、弓景眞白さんのこと、助けてください。」
「あぁ、知ってる。螢と違って素直ないい子じゃねぇか。」
「うるさい。」
「助けてやってもいいけど、お金は貰うよ?」
「お金……ですか…。」
眞白先輩を助けたいけど、これ以上お金を支出したら私たちの生活費も危なくなる。
「まだやってたんだね、それ。」
「気にすんなって。」
「いい加減辞めたらいいのに。」
「俺は螢じゃないから途中で投げ出したりはしない。」
「…………いつの話。」
「とぼけるのか?中学2年生のときの話。」
「ま、澄君。緋山君が……。」
緋山君から放たれる怒気が私でもわかるほどさっきと比とならないくらい膨らんでいく。
_______________螢は期待を裏切るのが好きだもんな。
期待を、裏切る?
緋山君が期待を裏切るなんて、私はないと思う。
一緒に住み始めてからずっと優しいし、しっかりしている。
でも、その言葉を聞いた時の緋山君は一瞬、私を見たような気がした。
そして、聞かないで、とでも言いたげな目だった気がする。
そんな気がするだけで思い込みしれないけれど。
「あの時だって、」
「…いい加減黙れよ。」
「…っ!」
一瞬体が震え上がる。
_______________怖い。
緋山君からは聞いたことのないような低い声。
メガネ越しだけど、私を見ている訳では無いけど、視線が、痛い。
「ハハッ、そんな怒るなって。そんなに澪月に聞かれたくなかったのか?それとも、自分が傷つきなかったとか?」
「どっちでもいいでしょ。」
「まぁ、澪月からのお願いを聞くには転校しか道はないよなぁ。」
えぇ!?転校!?
「て、転校までは大丈夫だよ。」
「でも、相手の近くにいた方が情報は手に入るからさ。」
「何を言っても聞かないから好きにやらせた方がいいよ。」
「そ、そうなの?」
転校までは申し訳ない。
なんて思ったのもつかの間、澄君から出た言葉で転校に賛成してしまった。
「俺、学校行ってないし。行っても友達いないから、知り合いがいないとつまらねぇんだわ。」
「澄君は、緋山君とお友達だよね?」
「まぁな。」
「違うって言ってるでしょ。」
友達がいたら学校生活が楽しくなるのかな…。
部活は入れるかどうかわからないけど、家庭環境のこと何も聞かれずに緋山君も入れたから澄君も天文学部に入れるかもしれない。
そしたら、澄君も楽しめるはず。
「澄君、転校できる?緋山君がいるからきっと楽しいよ。」
「おっ!いいのか?」
「うん!」
「よし、早速転校手続きをしてくる!お邪魔しました。」
「またね!」
「ほんと邪魔だよ。」
澄君が嵐のように過ぎ去っていく。
気がついたらもうバイトの時間をすぎている。
また先輩に迷惑かけちゃったかな…。
「緋山君、澄君いい人だね。」
「あいつだけはやめた方がいいよ。」
「緋山君の友達はみんないい人だよ。」
「友達じゃないって。」
緋山君に昔何があったかは聞かない。
いつかきっと話してくれると思うから。
今は眞白先輩を…。
「ねぇ、弓景先輩の家って知らないの?」
「えっ!?ど、どうしたの?」
「家に行って聞いてみたらいいじゃん。なんか家庭環境がダメとか言ってたけど。」
「私は……。まだ入ったばかりだからみんなの家、知らないんだ。先輩達もね、誰の家も知らなくて私の家が始めてみたい。」
「へぇ。」
「あっ、でも奏汰先輩は茜先輩の家知ってるみたいだけど。」
「そう。じゃあ、どうしようもないね。」
そして、バイト先に電話で謝り夕飯を作る。
バイトの方は店長が優しいから許してくれた。今度、お詫びの品でも持っていこうかな。
「そういえば……。」
緋山君にケーキを買ってあげるとか言って買ってなかったような気がするなぁ。
言ってないかもしれないけど。
「ねぇ、緋山君。」
「ん?」
「何のケーキが好き?」
「………イチゴケーキ。」
「イチゴが好きなんだね!今度手作りでよければ作ってみるね!」
「作れるの?」
「これでもバイト先ではお菓子作りの担当だから。」
「そう。期待してる。」
緋山君はまた本に視線を移す。
夕飯は思った以上に早くできた。
まぁ、サンマの塩焼きは焼くだけだもんね。
魚料理はうまく作れないけど、美味しいから好き。お肉はうまく噛みきれないからハンバーグとか以外は苦手。
「緋山君。机の上かたしてもらってもいい?」
「……分かった。」
渋々という感じだけど、片付けてくれるのが緋山君のいいところだと思う。
「いただきます。」
「……いただきます。」
そして箸を進めていく。
だけど、いつもより緋山君の食べるスピードが遅い。もしかして………。
「緋山君、サンマ苦手?」
「苦手ではないけど………。骨とるのが面倒。」
「そっか…。」
そういわれれば、緋山君はさっきから骨をとるのに一生懸命になっている。
「と、とってあげようか?」
「………じゃあ、お願い。」
緋山君にサンマの乗ったお皿が渡される。
「こういうのにはねコツがあってね……………。」
実践しながらコツを教えていく。
私の教え方なんかで上達できるなんて思わないけど。
「へぇ、凄い。」
「そ、そうかな…。」
緋山君にすごいって言われると照れるなぁ。
そして、二人で何の会話もなくご飯を食べる。
なにか話した方がいいのかなぁ。
でも、食べてる時に話しかけられるの不愉快っていう人もいるし……。
「ねぇ、」
「はい!」
「なんで敬語…………。哀川さんにとって弓景先輩はどんな感じの人なの?」
「えっと、頼りになる、憧れの先輩……だよ。」
「そう。弓景先輩、戻るといいね。」
「えっ。」
「………何。」
ひ、緋山君も心配してくれてるんだ。
「そう言ってくれると思わなくて…。」
「僕が言ったら不満?」
恥ずかしいのか、軽くそっぽを向く緋山君。
その動作が可愛く思えてしまった。
「ううん!ありがとう!」
それから眞白先輩や天文学部のことについて話した。
いつもは緋山君から話しかけてこんなに長い間話すなんてことなかったのに。
「なんでこんなに話してくれるの?」
「別に………。ただの気まぐれ。」
「そっか。明日は休みだからもっと話そうね!」
「気が向いたらね。」
「うん!」
「………………元気でた?」
小声で緋山君が呟いた。
「えっ?」
「昨日より元気がなかったから。もしかして自覚なかったの?」
「えっ………。そ、そうかな?」
「まぁいいや。風呂入ってくる。」
「う、うん。」
元気なかった、か………。
きっと、緋山君なりに元気づけようとしてくれたのかな。
緋山君はやっぱり優しいなぁ。
「明日はもっと話せますように。」
ルームシェア6日目、終了。
澪月side
7月20日。
土曜日は基本、半日休み無しで働く。
そのため、朝起きる時間は学校がある時間と同じ。
だから緋山君は起きてない。
……………と、思ってた。
「ひ、緋山君。おはよう。」
「…おはよ。早いね。」
「バ、バイトがあるから。緋山君は早いね。」
こんな時間に起きてるなんて思わなかった。
いつもの緋山君はずっと寝てそうなイメージがあるのに……。
「哀川さんに早く会いたかったから。」
「えっ!?」
真顔でそう告げる緋山君に驚く私。
「嘘。今日は偶然は約目が覚めただけ。」
「び、びっくりしたぁ。でも私も緋山君に早く会いたかったよ。」
今日も帰ってきてからたくさん話して、眞白先輩の事とか話して、もっと仲良くなれたらいいなぁ。
「………そう。」
「?緋山君、どうしたの?」
「今こっち見ないで。」
「えっ!?な、なんかした?私。」
「……………まぁ。」
「え、ごめん。」
私なにかしたかなぁ。
もしかして、嫌われるようなことしちゃったかな……。
「なんで落ち込んでるの。」
「緋山君に嫌われることしたかな…。」
「え、してないでしょ?」
「嫌いになってない?」
「どこで嫌う要素があるの。」
自分のことはよくわからないからなぁ。
「あ、緋山君。今日のお昼は何がいい?
買ってくるよ。」
「なんでもいいけど……。多分寝てるから。」
「んー、じゃあ、何か買ってくるから食べたいものがあったら連絡してね。お昼頃に仕事終わるから。」
「分かった。雨が降るみたいだから傘もっていきなよ。」
「うん!じゃあ、握手しましょう!」
「なんで敬語……?」
これで4回目の握手。
結構慣れてきたけど、まだ手をのせるのに精一杯だ。
それでも、懲りずに緋山君は何度も手をのせてくれるから嬉しい。
「急がないと間に合わないんじゃない。」
「あっ!朝ごはんとかも用意しないと!」
そう言い、バタバタしてるとずっと見られてる感じがした。
後ろを向くと緋山君が見ていた。
「あ、分かったんだ。」
「人の視線は感じやすいから……。」
だから、人の視線を怖く感じるんだ。
「ごめん。でも、面白くて。」
「面白い?」
「朝から元気そうだから。」
「えへへ、緋山君は眠そうだね。」
「まぁね。いつも寝てる時間だから。」
いつも寝ている時間なんだ。
私は基本バイトじゃない日でも普通にバイトを入れていたから、この時間はたいてい起きている。
これからの日曜日はバイトを入れないようにしよう。
そして、緋山君ともっと交流できる時間を増やそう。
そのために沢山働かないと……!
「準備してくるね!」
「ん。」
そして、朝ごはんを用意して家を出る。
「行ってきます。」
「気をつけてよ。傘もった?」
「うん。」
「じゃあね。」
そして、雨が降りそうな雲の中バイト先に向かった。
「あ、哀川さん。久しぶり。」
「由宇先輩、お久しぶりです!」
「珍しく休んだからびっくりしたよ。」
「……すみません。」
「まぁ、今まで結構働いてくれてたからけこれくらい許しちゃうけどね。」
「あ、ありがとうございます!」
先輩が優しくて良かった。
迷惑をかけた分、今日は頑張らないと!
「あ、先輩!」
「ん?どうした?」
「明日から日曜日はバイト来れません。すみません。」
「いいよいいよ、本来はバイトのひじゃないでしょ。友達?」
緋山君は友達って言うのかな。
「た、多分友達です。」
緋山君は私のこと友達だと思ってくれてるかな……。
こういうことを考えると心配になってくる。
「多分って…。まぁ、仲がいいなら友達でしょ。」
「そうですね!」
「じゃあ、今日もよろしくー。」
「お願いします!」
そして、いつもより気合を入れてケーキ作りに励んだ。
螢side
哀川さんが仕事へ行ってから、特にすることがない。
「暇……。」
まぁ、暇が一番いいんだけど、暇すぎるのも嫌だ。
「寝ようかな。」
そう思った瞬間、インターホンがなる。
「誰。」
きっと哀川さんに用がある人だろう。
僕が出なくてもいいか……。
『あれ?螢いないのか……。この時間は澪月は仕事だったような気がするんだけど……。まぁ、また出直すか。』
聞き覚えのある声。
いや、聞き覚えなんてレベルじゃない。
昨日聞いたじゃないか。
急いで玄関へ行き、扉を開ける。
「うおぉ!なんだ、いるじゃねぇか。」
「ねぇ、なんでいるの。」
「暇してるだろうなって思って。」
「余計なお世話だよ、澄。」
なんでこいつはここにいる。
しかも、さっき……。
「哀川さんの仕事の時間はいつ知ったの。」
「お?すぐ分かったけど?」
はぁ。こいつはこういう奴だった。
「家に上がらせてもらえるなんて思わなかった……。」
「弓景先輩のこと調べてくれたんでしょ。哀川さんの為だからね。」
「なんで、俺が弓景眞白さんのことを調べたって知ってる?」
「君が来る時はたいていなにか理由があるでしょ。」
特に時間が必要な話の場合は大事な話が多い。
「何がわかったの。」